広瀬すず、“ぶつかっている壁”を破るために「普通の人間としての経験を大切にしたい」

広瀬すずには今、“ぶつかっている壁”があるという。映画『流浪の月』は撮影前から「自分でもどうしていいか分からない」と感じる壁と向き合う日々だった。撮影を終えた広瀬はその壁を破るため、気付いたことがあると語る。
【写真】役のために減量をした広瀬すず
普通の人間として、楽しんだり経験することを大切にしたい
女児誘拐事件の「元被害女児」と「元誘拐犯」とされ、15年の時を経て再会した男女――。世間の常識では、決して会うことなど許されない2人の姿を描く『流浪の月』。「元誘拐犯」の佐伯文役を松坂桃李が演じ、広瀬は「元被害女児」の家内更紗役として、映画『怒り』(2016年)の李相日監督と6年ぶりにタッグを組んだ。
『怒り』はオーディションで勝ち取った役だったが、当時、監督からは痛烈なダメ出しを受ける日々だった。だからこそ今回のオファーには「私を呼んでくださるんだ」と驚いたというが、監督への信頼は厚い。
「監督としても人としても、すごく信用しています。ある意味、怖いんです。全部見透かされる感じ。少しでも嘘(うそ)をついたりごまかそうとしたりすると、全部的確に当てられる」。
減量をして撮影に臨んだ 映画『流浪の月』より (C)2022「流浪の月」製作委員会
そんな監督から更紗を演じるにあたり、「もう少し儚(はかな)さがほしい。シルエットを小さく見せたい」と言われ、食事制限をして減量に取り組んだ。
「ただ、『やせすぎないように』とも言われて、実際に落としたのは3kgもないくらい。普段からよく食べるし、お酒も飲むので、それを全部やめたら2週間くらいで落ちて、すぐに監督からストップが掛かりました。そこから3ヵ月くらいはキープの時間でした」。
そうして6年前に「応えきれなかった」李監督の現場に挑んだ広瀬だったが、実は撮影前からある“壁”にぶつかっていた。
「お芝居に対してずっと“ふわふわ”していて。感情が湧いてこないというか、感情を流してしまう癖じゃないですけど、そういうのに慣れてしまったというか…。それは絶対に良くないと思っていたんですけど、自分でもどうしたらいいか分からなかったんです。そのことはクランクイン前に李さんには伝えました」。
そんな“壁”を感じつつも挑んだ本作。撮影を終えて、“ふわふわ”した思いは「簡単にモヤが取れるわけじゃないんだな」と一気に解消されるものではなかったが、気付いたこともあった。
「仕事だけではなくて、普段の私生活でどういう感情に出合っているか、改めて思い返してみたときに、プライベートで泣くことがないし、はしゃぐくらい楽しい、という時間もコロナ禍ということもあってなくなってきていて。そういう感情に自分が触れられていないから生まれなくなっているんですよね。人生経験としていろんな感情に出合いたいっていうのを今回一番思いました」。
同時に自身の置かれている環境についても思いを馳(は)せる。
「職業的にというのは言い方が良くないかもしれないけれど、やっぱり私は環境的に守られているんですよね。友達からであっても、事務所の方たちからであっても。それは自覚があるし、すごくありがたいことだと思います。一方で、リスキーなことや、緊張感のあるところにはわざわざ行かなくなるし、避けてしまう部分があります。そういう部分を普通の人間として、まず楽しんだり、経験することを大切にするべきなんだなって思ったんですよね。いろんな経験をして、素直な感情が出てきたら、今もがいてること、苦しんでいることは軽くなるかも…。そんな気がしました」。