山寺宏一、ディズニー日本版声優歴30年超え! 『美女と野獣』から始まった軌跡を振り返る
2023年10月16日、ウォルト・ディズニー・カンパニーが創立100周年を迎えた。世界初の長編カラーアニメーション『白雪姫』に始まり、これまでディズニーが届けてきた長編アニメーション作品は全61作品。そして100周年を記念する新たな物語 『ウィッシュ』が15日に公開された。本作は、長きにわたりディズニー作品が描き続けてきた“願いの力”を真正面からテーマとして描く、100年の歴史の集大成とも言うべき作品。願いがかなう魔法の王国に暮らす少女アーシャは、すべての“願い”が魔法を操る王様に支配されているという衝撃の真実を知り、奪われた“願い”を取り戻そうと奮闘する。そんなアーシャの相棒は、子ヤギのバレンティノ。これまでもディズニー作品を彩ってきた“しゃべる動物”のキャラクターで、日本版声優は多数のディズニー作品に参加してきた山寺宏一が務める。山寺が初めてディズニー作品を担当したのは、1992年に日本公開された『美女と野獣』。それから約30年間、山寺はディズニー作品とどのような道を歩んできたのか。クランクイン!が話を聞いた。
【写真】バレンティノ風カラーの衣装に身を包んだ山寺宏一
■小学生の頃からディズニーとつながりが
ーー今年声優38年目の山寺さんですが、『美女と野獣』で野獣の日本版声優を務めたころはまだまだ若手だったと存じます。こうしてディズニー作品に携わる前は、山寺さんにとってディズニーはどんな存在でしたか?
山寺:テレビで昔、ウォルト・ディズニーさんが冒頭に出てくる番組が放送されていたのを今も覚えています。故郷が田舎なのであまり映画館に通った方ではなかったのですが、いろんなアニメーションを見ていたので、ディズニー作品は大好きでした。あと、実は小学生の頃に読書感想文を書く時間があったのですが、ウォルトさんの伝記を読んで書きました。文章を書くのはすごく苦手だったんですけど、ウォルトさんなら楽しそうだなと思って。何を書いたかは一切覚えていないんですけどね(笑)。多分、ウォルトさんのように誰かを笑顔にする人になりたいみたいなことを書いたような気がします。
ーーすごいめぐり合わせですね。そこから『美女と野獣』がディズニー作品の声優第1作目に。
山寺:『美女と野獣』のオーディションの時はまだ若手でしたし、お声がかかっただけでうれしかったのですが、大作の劇場アニメーションですから、野獣の役は自分には無理だろうと思っていました。声優になってディズニー作品に携わりたいというのは、誰しもが思うことじゃないかなと思うのですが、オーディションに受かって、「早々にかなっちゃったな」と浮かれたことを覚えています。でも自信はなかったですね。自分で大丈夫なんだろうかと。
ーーそんな不安を感じさせない、優しさ、恐れ、強さ…キャラクターのすべてが詰まった野獣でした。
山寺:ロビー・ベンソンさんのオリジナルの野獣は、もっと低い声だったんです。なので「ここまで低く作ったほうがいいんですか?」と聞いたんですけど、「加工するからそんなに無理して低くしなくていいけど、やれるならやって」と言われて(笑)。それで収録したんですけど、出来上がったものを見たら、そこまで加工されていなくて、もっと低くうなるようにしゃべればよかったなと思いましたが、「それで良いんだよ」と言われたのであの仕上がりになりました。なので本来は加工前提での演技だったんです。あの当時は今のようにネットがないですし、皆さんからの評判が一切分からなくて、周りの知人から聞く感想しかなかったんですけど、先輩に「山ちゃん良かったよ、野獣。でも人間に戻る前の野獣の方が良かったね」と言われて、「先輩たち厳しいな」と思ったのを覚えています(笑)。
ーー(笑)。そんな山寺さんは今年1月に、東京ディズニーランドの『美女と野獣』の城の前で撮影した写真付きで、「おれんち! 寄ってく?」とXに投稿したのも話題になりました。あれは山寺さんにしかできない投稿だなと。
山寺:調子に乗ってあんな投稿してしまいました(笑)。『美女と野獣』のアトラクションのために収録をしたときも、久々に野獣を演じるのでもっと作り込もうと思ったんですけど、「もうみんな映画見てるので、それと同じでお願いします」と言われました。今だったらもっと低い声で野獣を作れたと思うんですけど。
ーーあの時の野獣のままでした!(笑) それから『美女と野獣』以降で山寺さんの重要な役柄と言えばドナルドダックです。もともとダックボイスができた状態でオーディションに挑んだとか。
山寺:そうなんです。ダックボイスで鳴き声だけは友達に教えてもらっていたんですけど、むしろ鳴き声しかできなくて。それでも「しゃべれなきゃダメだから」と言われた上に、オーディションを受けた人の中でダックボイスができた人が他にいなかったみたいで、練習しなければならず、ダックボイスのことしか考えない日々が続きました。昼も夜も練習し、お風呂でやっているときに少しずつつかみだして…結局形になるまで数ヵ月かかりました。その間、6回くらいオーディションを受けたのですが、途中から他の人が受けなくなっていって(笑)。最後僕だけが残り、なんとかOKが出ました。
ドナルドの声で日本語を話す人もそれまでいなかったわけですから、オリジナル版のクラレンス・ナッシュさん、トニー・アンセルモさんの声を聞いたのと、あとインドにも上手な人がいると聞いてその方の音源も借りて、とにかく練習しました。
ーードナルドのみならず、スティッチもそうですが、キャラクターの声をつくる作業と発声方法を習得しなければならない作業は消費するエネルギーが違いそうです。
山寺:そうですね。あくまでもオリジナルの方と同じ発声方法で同じような音を出さなければならないので、完全にモノマネです。声帯模写の域ですね。
ーー改めてプロフェッショナルを感じます。さて今回の『ウィッシュ』では、543ものディズニーキャラクターが勢ぞろいする短編映画『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』の特別吹替版も同時上映されます。字幕版では、ロビン・ウィリアムズさんが演じたジーニーの未公開音声が使われていることで話題になりましたが、山寺さんにとっても感慨深かったのではないでしょうか?