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『魔女の宅急便』原作者・角野栄子が伝えたい、“ひとりひとりが自分の言葉を持つことの大切さ”

映画

◆私が書いたんじゃなくて、主人公が要求してくる



――角野さんの文章には声に出して読みたくなるリズムがありますが、映画にも音読されている姿が登場していましたね。

角野:私は書き終わると必ず音読します。小さい時もそうやって読んでいたし、読んでくださるお子さんもきっと声を出して読むと思うんですよ。私の気持ちや体のリズムは、声を出せば自ずと出てくるわけでしょ。私の呼吸みたいなものが伝わればいいなと思って、音読しますし、音読した方が読んでいても楽しい気持ちになると思うんですよ。

――今日はやりたくないと思うときや、何も浮かばないときはありませんか。

角野:誰かに何か返事を書かなきゃいけないとか、他にもやらなくちゃならないことがいっぱいあるわけ。そういうときは、ものすごくイライラするの(笑)。でも、自分の仕事をしているときは、すっごく安定しているの。1人旅をしていると、ちょっと寂しくなるときってありますよね。私はそういう時、絵を描いたり、何か書いていたりするだけで、気持ちが安定するの。

もちろん書けないときもありますよ。そういうときは、コーヒーを飲みにいくとか、書く以外のことをするけど、あくる日になればたいてい書ける。まっすぐ書こうと思っていたのを、ちょっと曲げてみようかなとか、そういう自由が戻ってくるわけ。うまくいかないと思っても、一晩寝ると、 別にうまくいかなくたっていいんじゃない、ちょっと右に曲がってみても面白いかもしれないという気分になる。そうすると、違う人と出会うとか、いろいろ浮かんできて、書いているうちにどんどん面白くなっていくんです。私が書いたんじゃなくて、主人公が要求してくるわけよ。「もっと面白いことやりたいな」みたいに。


――ご自身を離れて主人公が動き出すように感じたのはいつ頃からですか。

角野:『魔女の宅急便』からかな。短編のお話が雑誌から依頼があったの。そのときに私は、長編連載したいと言ったのね。新人だったし、雑誌で長編連載なんていうのは、名だたる方たちがお書きになるものなのに、私はそんなことを全然知らないから、言ってみたら、検討なさったのでしょうね。やらせてもらえることになって。そのとき、思い出したのが、私の娘が12歳くらいの頃に描いた、ラジオを聞きながら空を飛んでいる魔女の絵だったの。

それと、私が大学生の頃、アメリカ大使館の図書館で『LIFE』という写真週刊誌に載っていた「鳥の目の高さから見たニューヨークの風景写真」というモノクロ写真を見て、それがすごく綺麗で、ずっと自分の中にあったことと結びついて。鳥の目で街を見てみたいという思いから「この物語を書けば私は飛べる」と思った。

でも、まず名前を決めなくちゃいけない。黒猫のジジは意外と早く決まったんだけど、主人公はピッタリくる名前がなかなか見つからない。名前が決まらないと、人格を持たないの。そこから、キキと決まったときに、私のそばにキキの像が立つのね。それで、主人公が空をほうきで飛んで、上から街を見ながらいろんなことを発見していく、そういう魔女を書いてみたいなと。一緒に飛ばないと書けないな、飛べたら面白いなと思ったんですよ。もちろん実際に飛べるわけではないけど、飛んだつもりにならなきゃ書けないでしょう。

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◆ひとりひとりが自分の言葉を持つことの大切さを実感

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