『魔女の宅急便』原作者・角野栄子が伝えたい、“ひとりひとりが自分の言葉を持つことの大切さ”
――豊かな想像力や発想、生き方に憧れますが、専業主婦の頃の息苦しさや、ブラジルでの後悔の日々、戦争など、苦しい時代を乗り越えての自由なのだと、映画を拝見して感じました。
角野:戦争時代には、1つの言葉ぐらいしか目指すことがなかったの。「日本には神風が吹く」と大人も子どももみんな信じていたのね。今考えると、なぜ信じたのかと思うんだけど、洗脳というのは恐ろしいもので、みんなそう思ったわけでしょ。それが、戦争終わって徐々に、自由と共にアメリカの進駐軍の放送でジャズが流れてきて、外来の文化が入ってきた。自分で考えられる世界、自由が広がっていく様子を見て、これだけは絶対に手放したくないなと切実に思いましたね。
――今、世界のあちこちで戦争が起きていて、特に若い世代は豊かな時代を知らず、閉塞感の中に生きています。
角野:ひとりひとりが自分の言葉を持たなくちゃいけないと、私は思う。そうしないと、気づいたら全然違う世界になってしまうことがあるから。戦争の時がそうでした。毎日潤沢におやつがあって、いくらでも食べられる状態が、ある時期から母が半紙にお煎餅や飴2つを包んで、子どもに渡すようになった。十分に食べられなかったけど、それでも子どもはおやつをもらうと、世の中の変化なんて何も考えずに、うれしく食べるじゃない? チョコレート1つ買ってきたら、分けて食べるとか、卵もたまに手に入ったら、1個を分けるわけよ。でも、卵を分けるのは難しいけどね。当時の子どもたちが感じた戦争はそんなものだった。気づいたら何もなくて、疎開と言われたり、子どもも防空演習とかバケツリレーとかに借り出されたの。
――昔の話のようで、今そうならないとは言い切れない恐怖もあります。
角野:本当にそう。焼け跡ってね、ガザやウクライナで今起こっていることと同じで、本当に何にもなくなっちゃうの。とても難しいことだけれども、これはおかしいんじゃないかとか、これはどうかと思えるためには、やっぱりひとりひとりが自分の言葉を持たないと。私はブラジルに行ったときに、就職する際に「自分のできることは隠さずちゃんと言いなさい」と言われました。日本人は謙遜しがちですが、「これはできるけど、これはそれほどでもない」とちゃんと言えないとダメだと言われたんですね。
隣の人を見て同じようなことをして、みんなで決めましょうというのは楽かもしれない。でも、自分の言葉を持たないとね。日本人は本来農耕民族だから、隣のやり方に合わせようというところがあるけど、右見て左見て自分の意見を決めるような生き方は、これからのグローバルな世の中では通用しなくなる気がします。自分の言葉をちゃんと持って、そこから生まれる自分のきもちを、きちんと喋らないと、気づいたときには違う時代・違う社会になってしまっているかもしれませんよ。
(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)
映画『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』は1月26日公開。
映画『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』本ビジュアル (C)KADOKAWA