鹿賀丈史、俳優業は“生きがい” キャリア53年の今も若い世代から刺激受け自身をアップデート

舞台、映画、ドラマ、そしてバラエティ番組に至るまで、常に第一線を走り続けてきた俳優・鹿賀丈史。74歳となった今も「若い人から学ぶことが多い」と現状に満足せず、芝居への情熱を滾らせる。そんな 鹿賀が出演を熱望した作品が、宮本亞門が監督を務めるショートフィルム『生きがい IKIGAI』だ。2024年1月1日、芸名「鹿賀」の由来ともなった故郷・石川(加賀)を襲った能登半島地震。鹿賀は、未曾有の災害に心を痛めるなか、自身の俳優人生そのものを問うようなタイトルを冠したこの作品に出演したことで、俳優という仕事への強い思いや、哲学が改めて浮かび上がってきたという。
【写真】鹿賀丈史、ダンディズムあふれる撮りおろしショット
■「やりましょう」――故郷への祈りを込め、迷うことなく決断
「芸名をいただいた故郷ですからね」とつぶやいた鹿賀。地震のあと、豪雨による水害にも見舞われた能登。「どうして能登にこんなことが続くんだろう……」と穏やかな語り口とは裏腹に、その瞳の奥には故郷を思う深い痛みが滲む。
映画『生きがい IKIGAI』ポスタービジュアル (C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ
2024年の元日、日本中が悲しみに暮れた能登半島地震。石川県出身の鹿賀にとって、それは決して人ごとではなかった。被災地の惨状、遅々として進まない援助。心を苛まれる日々を送る中、一本の電話が彼の心を動かす。演出家の宮本亞門からだった。
「亞門さんから『能登の人に少しでも元気になっていただけるようなショートフィルムを撮りたい』という連絡があったんです。僕は台本も読まずに『やりましょう、やりましょう』って即答しました」。
そこには損得勘定はない。ただ、俳優として自分にできることがあるのなら――。その一心で現場に向かった。本作で鹿賀が演じたのは、元教師で“黒鬼”と呼ばれる山本信三。災害によって全てを失い、生きる気力すらなくした男だ。家の下敷きになり「これでやっと死ねる」とまで思う絶望的な役どころだ。
映画『生きがい IKIGAI』場面写真 (C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ
「僕も一人暮らしですから、いつ自分の身に起こってもおかしくない。人ごとではないんです。山本という男を通して、災害に遭った人間がどう立ち直っていくか。亞門さんも誠心誠意込めて作っていて、台本を読んだ時、これはいい映画になるだろうなと思いました」。
故郷への祈りを自身の芝居に昇華させ、魂を込めて挑んだ山本という役。鹿賀自身も身につまされる思いがあった。「人って人との関わり合いがなくなってしまうと、本当に孤独を強く感じてしまう。特に男性が一人で老後を暮らすとなると、それはなおさらなんですよね」と深く山本に感情移入したという。