孤高の芸人・永野、「大嫌い」な世界に足を踏み入れ見えたもの “戦い方”の変化にリンク
これまで永野は、大手事務所に所属しない自分が生き残るため、あえて人とのコミュニケーションを避け、自分の世界を煮詰めることで対抗してきた。それは永野が編み出した唯一の戦術であり、アイデンティティでもあった。しかし、「ラヴ上等」で見たのは真逆の世界。傷つくことを恐れず、人とぶつかり合うヤンキーたちの姿は、プロテクト癖がついていた永野にとって、眩しく、そして少し羨ましく映った。
「AKさんの話とか聞いていると、ヤンキーの人ってめちゃくちゃ人と接触するじゃないですか。あれがね、見ているうちに羨ましくなりました。『これはこれで、超面白いな』っていうか、人生観として。自分はかなり閉じることでパワーをみなぎらせていたので。めちゃくちゃ開いているじゃないですか、あの人たちって」。
奇しくも、彼自身が自身の戦い方に「きついな」と限界を感じていた時期だった。インディーズ映画の制作などを通じ、コミュニケーションの面白さに気づき始めていたタイミングで出会ったのが「ラヴ上等」だったのだ。
「『運命』じゃないけれど、『いい時期に来たな』とか思いましたね。新しいなって」。

この番組は、永野自身の価値観そのものを揺さぶるきっかけにもなった。かつては、持たざる者の矜持(きょうじ)として、富める者への反骨心をエネルギーに変えていた。だが、それは自分を鼓舞するための仮想敵だったのかもしれないと永野は振り返る。
「昔は芸人たちと金もないけど飲んで……みたいなノリがあったんですけど、最近、医者とかと飲んでいる方が楽しいなって。やっぱり金持ちって余裕があるんですよ。人をポジションで見るなとか言うけど、若い頃の方がそういう視点で見ていたなって。金持ちって良い人多いなって気づきました」。
それは決して拝金主義というわけではない。これまで「何くそ」と自身を奮い立たせるために作っていた色眼鏡から解放され、純粋に人と向き合えるようになった証なのだろう。
「コミュニケーションを拒絶することで自分の世界を煮詰めるしか、マジで戦えないと思っていたんです。だけどAKさんとも出会い、人の話を聞くのって大事だな……みたいな。固まったらいかんなって思いました」。
嫌いだったはずの世界は、永野に新たな扉を開かせた。頑なだった男が手に入れたしなやかさは、これから彼の芸を、そして人生を、さらに面白くしていくに違いない。(取材・文:磯部正和 写真・上野留加)
Netflixリアリティシリーズ「ラヴ上等」は、独占配信中。

