キム・ギドク監督、「言葉を発して演技がダメになる人も」全編台詞なしの利点とは
本作のもう一つの特徴は、全編を通して一切のセリフがないことだ。「これまでの私の作品のなかでも『悪い男』や『うつせみ』など主役にセリフがない作品がありました。その際に、セリフがなくても意味を伝えることが可能なんだということを実感していましたし、映画においてセリフがないことは興味深い表現方法だと思っていたんです」。
また「セリフがないことが長所になるなと感じたことが結構ありました。俳優さんによっては、言葉を発してしまうと、とたんに演技がダメになってしまう人もいて…。どの作品の誰とは言いませんがね!」と、茶目っ気たっぷりに笑った。そんな監督の狙い通り、本作では俳優の表情や呼吸、間から、セリフを補って余りある感情が映像を通して伝わってくる。言葉がない分、多くの想像力を掻き立て、人物に奥行きを与えてくれる。
日本でも戦前、愛人関係にある男性を殺害し、性器を切断して持ち去った「阿部定事件」というものがあったが「知っています。(『愛のコリーダ』というタイトルで)大島渚監督がモチーフにして撮られていますよね」とギドク監督。「性器切断事件を調べていると、世界中で似たような事件があるんです。でも『メビウス』は、そういったモチーフを使いつつも、歪んだつながりで結ばれているのが家族なんだということや、家族の持つ矛盾だったりを表現したかったんです」と作品に込めた想いを語ってくれた。(取材・文・写真:才谷りょう)
映画『メビウス』は12月6日より全国公開。