犯罪ドラマに女性がハマる理由とは? 心理学者・晴香葉子氏が分析

FBIの最強プロファイラー・チームが凶悪事件に挑む犯罪捜査サスペンスドラマ『クリミナル・マインド/FBI vs. 異常犯罪』。全米ではこの秋からシーズン14に突入する超ロングヒット番組である本作には女性ファンも非常に多い。イケメンキャストが魅力的なのはもちろん、観ると「スッキリする」「よく寝られる」という、犯罪ドラマでは“意外な”女性視聴者の声も少なくない。そこで、本作に女性がハマる理由を解き明かすべく、心理学者の晴香葉子氏に話をうかがった。
【写真】魅力的なキャストに注目!『クリミナル・マインド/FBI vs. 異常犯罪』シーズン1
本作は、FBIに実在するエリート捜査官チームBAU(Behavioral Analysis Unit=行動分析課)が、プロファイリングを駆使してシリアルキラーの犯行を食い止めるべく奮闘する姿を描く。日本でも多くファンを抱える人気ドラマで、近年は、本作にハマる女性が急増しているという。
FBIに実在するエリート捜査官チームBAUの活躍を描く『クリミナル・マインド/FBI vs. 異常犯罪』 (C)2004 Touchstone Television.All rights reserved.
――『クリミナル・マインド/FBI vs. 異常犯罪』は、捜査・犯罪ドラマというジャンルになるのですが、女性から非常に人気があります。どういったところが、「女性がハマる理由」になっているのでしょうか?
犯罪ドラマである本作には、ゾッとするような内容のエピソードもありますが、女性が次も観たくなるポイントがたくさんあります。主なポイントをいくつかご説明しますね。
まず、BAUのメンバー1人1人が非常に魅力的であること。人気が高まったドラマが終わると、“ロス現象”が起こりますよね。連続ドラマでは、登場人物に“また会いたくなる”という心理が人気を左右するポイントになります。ストーリーももちろんですが、人的魅力が大事なんです。BAUメンバーには、女性がまた会いたくなる要素が満載です。
BAUメンバーには、女性がまた会いたくなる要素が満載 (C)2004 Touchstone Television.All rights reserved.
――確かに、長年観続けていても、会いたくなるメンバーたちですね。それは、どのような要素からでしょうか?
個性的で、それぞれが何かのプロフェッショナルであること。ホッチをはじめ、リーダー的立場の人にも威圧感がないこと。共感型リーダーシップが求められている昨今、ホッチはそのお手本のような人物です。凶悪犯罪を捜査していても穏やかで、常に冷静で客観的。メンバー全員がやるべきことに集中しています。勇敢でユーモアもあって、みんな笑顔が素敵ですよね。そして、とても優秀な人たちですが、自分の気持ちを素直に話します。裏表がないことが人間味となって、親しみを感じさせます。
――男性メンバーも女性メンバーも率直に話す人ばかりですよね。ほかには、どんなポイントがありますか?
言語心理学で使う“ポライトネス”という、単なる丁寧さや礼儀正しさではなく、会話の心地よさを表す言葉があるのですが、BAUメンバーはお互いを尊重し、程よい距離感で対話が行われているので、心地よさが視聴者にも伝わります。
働く女性が増え、上司から高圧的な態度をとられてストレスを感じている女性も多いですよね。そういった女性は、特にBAUメンバーのような関係を心理的に求めています。彼らは、自分の考えを押し付けず、相手の語尾を奪ったりもしないですし、あうんの呼吸で協力し合って事件を解決していきます。この“ポライトネス”も、現代社会で働く女性たちにとって、また観たいと思わせるポイントになっていると思います。
『クリミナル・マインド/FBI vs. 異常犯罪』に女性がハマる理由を心理学の視点から解説していただいた クランクイン!
――確かに!BAUメンバーの絶妙な距離感は心地よさを感じます。本作を観ると「スッキリする」「よく寝られる」という感想も寄せられているのですが、これにも心理学的な要因がありますか?
あります。本作は、「フィクションであり」「被害者の描写が少なく」「一話で完結する」この3点が揃っています。これは心理的にとても大切な要素で、本作のようなドラマを観ると安心感を得ることができます。その為、視聴後に「スッキリする」という感想が寄せられるのも納得です。
――とても興味深いです!詳しく教えてください。
まず、本作は昨今のドラマによくある次のエピソードを観させるために、ドキドキしたシーンで終わり「続く」となる手法をとっていないですよね。一話完結で、必ずといっていいほどできるだけ血を流さないで済む方法で事件を解決します。こうすることで、視聴後にモヤモヤが残りにくくなります。
また、フィクションであるとわかって観ているので過度の恐怖心は抱かず、フィクションの中で起こっている悲劇として、客観的に距離を持って1人で見ることができます。
そして、「悲しい」「かわいそう」といった被害者への強い感情移入が起こらないように被害者の描写を少なくしているところも大きなポイントです。さらに、プロファイリングはたいてい当たり、必ず解決します。最後には、犯人が「どうしてそうなったのか」という説明もあるので安心感につながっています。
――なるほど。犯人のプロファイリングは詳細に行われても、被害者は深く掘り下げないので、怖い思いは伝わってこないのですね。
そうなんです。あと、1時間ほど非日常の世界に浸かることで、リフレッシュ効果もあります。私たちは、起きている間に2万もの瞬間を体験していると言われていて、それは<良い瞬間><悪い瞬間><記憶に残らない無数の瞬間>に分かれます。良い瞬間はハッピーな気持ちにしてくれますが、思い出し難いんです。逆に、悪い瞬間の方は追いかけてくるかのように何度も思い出してしまいます。そんな時に、本作のような非日常的なドラマを観ると、日常のことを忘れることができて、観終わった後、気持ちを切り替えることができるんです。
――人間の心理は面白いですね!気持ちが高まった後に、解決してホッとできるということですね。
それが安眠効果にもつながるのだと思います。いつも使っていない脳を使うことで、リフレッシュできるんです。
リフレッシュ効果もあると語る心理学者の晴香葉子氏 クランクイン!
――最後に、ほかにも心理学の観点からこういった効果があるというものがあれば教えてください。
本作には、プロファイリングの情報や社会データ的な情報も満載ですよね。私たちはフィクションとして接した恐怖心であっても、本能的に危険を察知し、危険を回避したいという衝動が起き、警戒態勢に入ります。ソファーに座って、ゆったりと観ていたとしても、警戒態勢中は、集中力が増し、記憶力もアップします。学習効果が高まっている状態で、様々な情報が本編の内容から入ってくるので「勉強になった」と感じます。
働いている女性は、「勉強したい」という「習得の欲求」が強い人も多いので、この「勉強になった」と感じることはとても大事なことです。
――『クリミナル・マインド』は、心理学的にも優れたドラマなんですね!なんとなく面白いと思ってこれまで観ていましたが、その理由がわかりました。大変勉強になるお話をありがとうございました。(取材・文:清水久美子/撮影:高野広美)
『クリミナル・マインド/FBI vs. 異常犯罪』シーズン1は、全国無料のBSテレビ局・Dlife(ディーライフ/チャンネル番号:BS258)にて、8月20日(月)より放送開始。毎週月曜日から水曜日22:00~22:54。