泉鏡花の初期の結晶・小説『黒百合』、初の舞台化! 木村達成、土居志央梨、岡本夏美ら出演
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■世田谷パブリックシアター芸術監督・白井晃より本企画について
泉鏡花の『黒百合』という小説に魅せられて、かつて脚本家の藤本有紀さんに戯曲化をお願いした。大変魅力的な戯曲を書いていただいたにも関わらず、残念ながら上演の機会を得ることができなかった。それでも、この戯曲は私の心の引き出しに大切に保管されていた。本年度の劇場のプログラムのテーマである「わたしは、この世界にどう生きるか」を考える中で、『黒百合』の登場人物である若者たちの姿が頭をよぎった。「現実」という名の社会の中で彼らは共に苦悩し、やがてはその「現実」の殻をぶち破ることで虚像の中に生を得る。この作品の中に、私たちがこの現実で生きていくための力が潜んでいるように思えたからだ。かくして、私の心の引き出しから藤本さんの戯曲を再び取り出すこととなり、この戯曲をダイナミックな空間使いと強度のある演出で定評のある杉原邦生さんに託したいという思いが込み上げた。杉原さんの力強い演出力と若い俳優たちのエネルギーが必ずや『黒百合』に新たな力を与えてくれると確信している。
■藤本有紀(脚本)
『黒百合』の舞台脚本を書いてみませんか、と白井晃さんからうれしいお申し出をいただき、心躍る思いでお引き受けしたのは2017年のことです。諸事情あって長い歳月を経てしまいましたが、ようやく上演の運びとなり、感謝の気持ちでいっぱいです。
儚く美しく妖しいモチーフの数々、それぞれに何かを拗らせている愛すべきキャラクターたち、泉鏡花らしい幻想的な世界観に冒険譚の要素まで加わった、魅力的な物語。私もいつの間にか石滝の禍々しさに引きこまれ、夢中で筆を進めました。
8年前の立ち上げ時を含め、この企画に関わってきたすべての人の思いを乗せた戯曲が、木村達成さんをはじめとした俳優さんたちによって命を吹きこまれ、宮川彬良さんの音楽によって彩られ、そして杉原邦生さんの演出によって極上のエンターテインメントとなって、世に姿を現します。ひとりでも多くの方にご覧いただけますことを願っています。
■杉原邦生(演出)
泉鏡花作品の最大の魅力は、人間という生きものが常に⾃然の⼀部であり、宇宙の⼀部であるという自明の現実から⽬をそらさずに物語を立ち上げていく、その眼差しだと思っています。今回の上演台本では、藤本有紀さんがそのダイナミズムを余すところなく見事に脚本化してくださいました。そこに宮川彬良さんのアイデア溢れる音楽が流れ込んでくると想像しただけで、身体の底から興奮が湧き上がってきます。
主演の木村達成さんとの作品づくりは2度目になりますが、彼のまっすぐな眼差し、野生的でしなやかな身体性、武骨さと繊細さを併せ持った声、そして、ちょっとのギャル味(笑)が、滝太郎という役をいまの時代に鮮烈に立ち上げてくれると確信しています。
その他、勇美子役の土居志央梨さんをはじめ、過去にご一緒し絶大な信頼を寄せている外山誠二さん、大西多摩恵さん、猪俣三四郎さん、田中佑弥さん、新名基浩さん、佐藤俊彦さん、舞台を観るたびにいつかご一緒したいと思い続けていた村岡希美さん、今回初めてご一緒できる岡本夏美さん、白石隼也さん、内田靖子さん、鈴木菜々さん、そして、演劇界のレジェンドであり心から尊敬してやまない唯一無二の俳優・白石加代子さん。個性豊かで素晴らしい皆さんとともに、『黒百合』初の舞台化に挑めることが楽しみでなりません。
また、いま僕がもっとも注目している若手ダンスカンパニー「ケダゴロ」主宰の振付家・下島礼紗さんとのクリエーションにもぜひご注目いただきたいです。
真冬の熱い舞台にどうご期待ください!
■木村達成(千破矢滝太郎役)
杉原邦生さんと再びお仕事ができることをとても嬉しく、楽しみにしています。
2022年にご一緒した『血の婚礼』作家ロルカと、本作品の原作者・泉鏡花はほぼ同時代を生きていたのだということを知りました。国は違っても、人生に渇きを感じ、どうにも手に入らないものを何とかして手に入れようとする人間を描いているというところが似ているような気がしています。
女性たちに「美しいが食えない金魚のような男」、姉のように慕うひとには「生まれながらの悪党」と散々の言われ方をしている“滝太郎”。金に不自由はないのに盗み続けるこの男を生きることで、何か美しいものを得ることができたらと願っています。
■土居志央梨(勇美子役)
演出の杉原邦生さんとご一緒するのは今回で3回目です。邦生さんの稽古場はいつもエネルギーに満ちていて、ドーパミンとアドレナリンがものすごく湧いてきます(笑)。演じることや物作りの楽しさを純粋に感じられるので、また声をかけていただいてとても嬉しかったです。
そして初めての世田谷パブリックシアターで素敵なキャストの皆様とご一緒できること、本当に楽しみです。
泉鏡花作品に触れるのはこれが初めてですが、『黒百合』の神秘的な世界を探検するような気持ちでのぞめたら。台本を読んでもこれがどのように立ち上がるのか予想がつかないことばかりで、逆にわくわくします。観たことのない舞台になる予感がします。ぜひお楽しみに!
■岡本夏美(雪役)
日本で長く愛されてきた泉鏡花作品に出演できるという喜びと、『黒百合』という、様々な要素を持ちながら、魅力的な人間たちが美しくも儚く交わり、広がっていく世界にお雪として、足を踏み入れられることをとても光栄に思います。
言葉のひとつひとつに宿る情念や想いを、舞台を通して丁寧に届けられたらなと思っております。
また個人的には、いつか立ちたいと夢見て、数々の作品を観劇した劇場、世田谷パブリックシアターの舞台に杉原さん演出作品で立たせていただけることがなによりも嬉しく、全身全霊で挑ませていただきます。
明治の時代に愉しまれた『黒百合』がどう現代に新しく生まれ変わるのか、私も予想できない部分が沢山あるので、稽古含め、楽しみながら演じられたらなと思います。
■白石隼也(若山拓役)
秘境に咲く黒百合をめぐる、人々の欲望渦巻く群像劇。「おいらのせいじゃあないぞ」と人間の業を肯定し、自然の猛威の前には人間は無力だと突きつける。泉鏡花らしい現実と非現実が交錯するこの作品が、杉原さんの手でいかにして舞台で表現されるのか、今から楽しみでなりません。
私が演じます若山拓という役は、愛する女性と巡り会った矢先に盲目となった青年です。失うことで得るもの、得ることで失うもの、これまで蓄えた経験の全てをこの役に捧げたいと思います。素晴らしいスタッフ、キャストの皆様と共に世田谷パブリックシアターでお待ちしております。
■白石加代子(婆さん役)
杉原邦生さんの舞台に再び立てることを、心から嬉しく思います。
杉原さんの演出は、常に作品の中に眠る“命”を呼び覚まし、俳優の内側に潜む想像力を解き放ってくださる。舞台の上で、その瞬間に立ち会えることが私にとって何よりの幸福です。
泉鏡花の『黒百合』――この作品には、夢と祈り、そして人間の哀しみと強さが渦巻いています。私は昔から、その文体の持つ“気配”に魅せられてきました。
私が演じる「婆さん」は本作の“風景”である気がします。
婆さんという名の風景としてこの物語に身を委ね、鏡花の言葉の海を漂いながら、人の心の奥にあるやさしさや孤独を、舞台の空気に溶かしていけたらと思います。
幻想と現実のあわいで、言葉の息づかいに耳を澄ませながら、静かに、そして確かに生きてみよう――そう願っています。