草なぎ剛「未知なる世界の扉が今まさに僕の心で開こうとしています」 主演舞台『シッダールタ』開幕
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草なぎ剛が主演する舞台『シッダールタ』が、東京・世田谷パブリックシアターにて11月15日に開幕。初日を迎え、草なぎ、杉野遥亮、瀧内公美らの開幕コメント、最終舞台稽古のレポートが到着した。
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■自己の探究、人生の遍歴 『シッダールタ』開幕
長田育恵(劇作)×白井晃(演出)×三宅純(音楽)、そして草なぎ剛主演の舞台『シッダールタ』が11月15日に開幕した。原作はヘルマン・ヘッセの傑作小説。叙事詩的/哲学的な力強い言葉、時空を超えて古代インドに誘われるような音楽、美術・照明・音響さまざまな要素が有機的につながる劇空間――。一人の男の魂の遍歴を描いた壮大な物語が鮮やかに立ち上がった、最終舞台稽古のレポートを送る。
古代インドに生まれたシッダールタは、最上位であるバラモン(司祭階級)の子としての生活に疑問を抱き、より深い叡智を求めて家を飛び出す。着いてきたのは彼に魅了されている青年ゴーヴィンダただ一人。しかし二人は袂を分かち、シッダールタは俗世に下野する。やがて高級娼婦カマラー、そして商人カーマスワーミと出会い、贅沢な快楽生活を知る。しかしシッダールタは、それでもなお満たされない心の渇きを覚え……。
シッダールタが出会いと別れを繰り返しながら旅を続ける物語は、驚くほどにシンプルである。劇場に入ってまず目に入るのは、天井から突き出して光を放つLED照明、大きな穴の中で展開するような舞台美術だろう。役者たちは上段から滑り台のように下段に降りてきたり、一挙に駆け上がったりしながら、自在に舞台を駆け巡りながら演技をする。美術は時にスクリーンとなり、投射される映像に合わせてダンサーたちがしなやかな動物となって駆け抜けていく躍動的な美しさ。モダンな舞台空間に沙羅双樹の森、野生的な生命が宿っていくようだった。床に敷かれた砂が役者たちの動きによって散らされ、刻々と表情を変化させていく様も面白い。
この舞台では、無機質で殺伐とした空間で悩む男を据えた“現代”の場面が随所にインサートされ、古代インドの物語が今の世界の様相と接続されていく。この“現代パート”では、世界の経済、紛争、ニュースの音声、スポーツの熱狂、ロケットの発射音、空港のざわめきなど、混沌とした音のコラージュが鳴り響く。彼に静かに話しかける青年の名前はデーミアン……このパートには同じくヘッセの小説「デーミアン」が重ねられ、ヘッセが同じ頃に執筆した両作が融合していくのも面白い趣向。
シッダールタという名前は、「シッドハ=成就したもの」と「アールトハ=目的」が結びついた言葉だという。真理を求める探究心、己に向きあい続ける強さ……ぼう大な台詞を操りながら青年から老年まで演じきった草なぎは、シッダールタの内面で起こるドラマを純度高く、かつ集中力高く演じる。影のような存在であるゴーウィンダを演じたのは、杉野遥亮。この役が持つピュアな哀しさは胸に迫るものがあった。妖艶なカマラーを鮮やかに立ち上げた瀧内公美は、この女が街を離れる決心をした時の表情が忘れ難い。松澤一之演じる父、有川マコト演じる商人カーマスワーミ、ノゾエ征爾演じる渡し守ヴァスデーヴァと、シッダールタに影響を与える人々の、人間味あふれる存在も印象に残った。インドの街の雑踏、欲望渦巻く賭場や娼館……目まぐるしく変化する場面を一瞬で見せていく、役者たちのチームワークといった、舞台人たちの筋力にも驚かされる。
『シッダールタ』が舞台化されるのは初めて観たが、立体化されると、民話をもとにしたイプセンの劇詩『ペール・ギュント』のような構造でもあると初めて気づかせてもらった。一人の人間が旅をしながら自らを発見する物語は、いつの時代もわたしたちの心を惹きつける。
悟りの境地にたどり着いた時、シッダールタの見た景色とは――ここはぜひ、観客一人ひとりの目と心で確認していただきたい。
(文=川添史子)
舞台『シッダールタ』は、東京・世田谷パブリックシアターにて12月27日まで上演中。兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて2026年1月10日~18日上演。
演出・作・キャストの開幕コメントは以下の通り。

