是枝裕和監督、AI時代の映画作り語る「手作業を無駄ととらえず、人間がふんばっていくことが大事」
関連 :
第79回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された映画『箱の中の羊』の公式会見が5月17日に開催され、是枝裕和監督、主演の綾瀬はるか&大悟(千鳥)、桒木里夢らが出席した。
【写真】綾瀬はるか、フラワーモチーフの“大人かわいい”白ドレスで登場 カンヌの青空バックに笑顔
フランス時間5月16日、第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門での公式上映を迎えた本作。是枝裕和監督をはじめ、主演の綾瀬はるか、大悟(千鳥)、桒木里夢が華やかなレッドカーペットを歩き、場内で大きな拍手で迎えられたあと、上映が始まった。上映中には涙を流す観客の姿も多く見られ、大悟のセリフには客席から何度も笑い声が起こるなど、会場は作品の世界観に深く引き込まれていた。
上映終了後、2300人を収容する会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こり、9分間にわたる熱狂的なスタンディングオベーションが続いた。是枝監督は安堵したような表情を浮かべながら会場を見渡し、すぐに綾瀬、大悟、桒木と握手を交わして喜びを分かち合った。4人は本作が多くの観客に届いた手応えを確かめ合うように、観客の称賛に応え続けた。会場にはケイト・ブランシェットの姿も見られたほか、ホールジー、ジェームズ・フランコらも惜しみない拍手を送っていた。
翌5月17日には、是枝監督、綾瀬と大悟、桒木に加え、音楽を担当した坂東祐大がフォトコールに続き公式会見に出席した。
是枝監督は、子どもを失った悲しみという普遍的なテーマと、AIという現代的なモチーフを結びつけた理由について、「AIについて僕は本当に詳しくないんです」と前置きしながら、「色々なところで議論されている話を聞きながら、一番大事なのはおそらく、技術が進歩してもなお残る最も人間らしいものはなんだろうか。それを観た方が観終わった後に辿っていけるような、そんな物語を書きたいなと思ったのがスタートでした」と、本作の出発点を語った。
綾瀬は、自身が演じた役柄について、「自分の息子を失って、そこから時が止まっているような、心も感情も失ってしまっているような女性」と説明。「きっかけはヒューマノイドの子どもでしたが、それをきっかけに新たに夫婦が閉ざしていたものが開いて、(互いに)向き合うきっかけになったり」と語り、「人が前を向くきっかけっていっぱいあって、自分の中で閉ざしているだけで、少し角度を変えたらそれが進んでいったり、ほんのちょっとのきっかけで変わることもある」と作品に込められた希望を明かした。
続けて「ヒューマノイドを迎えることで、本当に人間じゃない存在を迎えることで、人間と機械の違いを感じたりというところでまた葛藤する…。テーマが壮大なので、どうやってAIと人間が向き合っていくのかも一つ問いかけているような作品だなと思いました」と語った。
また是枝監督は、ロボットの子どもというキャラクターをどのように構築したのかについて、「生成AIを使って死者を蘇らせるビジネスに取り組んでいるという中国の企業家」の記事を読んだことがきっかけだったと説明。実際に中国でその人物と会った経験を振り返りながら、「画像の中ですが、蘇った死者の方と対話を重ねて、それが過去だけでなく新しく対話をする相手として時間を積み重ねていけることを目の当たりにしたときに、大変興味深く、これは利用する方がいると思う反面、その死者の存在を生きている人間が勝手に操作していいのかという倫理的な問いが自分の中に生まれました」と思いを吐露した。
そして、「ただそれが問われるのは、彼ではなく人間側だと思いました。最終的にその倫理観に大人が気づくという部分をひとつの縦軸にしようと考えました」と、本作のテーマを明かした。
さらに、「都合よく生んだ子どもがある瞬間不気味に思えたり、自分が語っていないことを理解しているように感じたりすることは、子育てをしている中でもよく感じることだと思います」と述べ、「それがかなり強調される形で母親と父親にとって不気味に感じられる。かわいくて切ない部分だけではないところをきちんと描こうと思いました」と振り返った。
綾瀬は、再び是枝組に参加した感想について、「監督は以前も本当に穏やかな方でしたが、今回はさらに穏やかで、現場は本当にずっと優しい空気感が漂っていました」とコメント。「その中にも緊張感はあるのですが、自然にお芝居に入って行けるような空気感。監督自身が現場で作られる空気感をとても大切にして撮影に入られているのだなと改めて感じました」と語った。
また、「監督はその日に撮ったものをその日に編集されて、それを受けてどんどん台本が変わっていく」と撮影現場を明かし、「ちょっとずつセリフがなくなったり足されたりしていくことで、少しの違いなのかもしれないですが、それによって場面がぐっと締まったり、違う広がりがあったり…それが本当に凄いなと思いました」と是枝監督の演出を絶賛。
「撮影して疲れているだろうに、寝ないで編集して、その集中力とエネルギーがすごいと撮影期間常に感じていました」と振り返り、「いつも穏やかなのがすごいと思いましたし、人の領域を超えているんじゃないかと思いました」と笑顔を見せた。
原案から脚本まで自ら手がけた是枝監督は、AIをめぐる現在の社会状況についても言及。「僕自身はいまだに原稿は手書きで、PCも一本指で打つような人間なので今回の撮影もフィルムで撮っています」と明かしつつ、「単純に僕は指を動かさないと発想が出てこないんです。それすらも思い込みなのかもしれないですが、身体性へのある種の信頼があります」と語った。
建築家・西沢立衛の本から影響を受けたことも明かし、「建築家は模型を手放さず、自分の手で形作った模型というものが一番建築という世界を把握するために重要だと考える人たちが多いということを知り、それにすごくシンパシーを感じました」とコメント。
そして、「手作業を無駄ととらえず、人間がふんばっていくということが映画作りにおいても大事なのかなと思います」と語り、「効率化は労働時間を短くするためには必要な部分ではあるのですが、その場その瞬間にしか生まれない奇跡もあると思っていて、そういう瞬間を求めて映画を作っています。人間の営みとして」と締めくくった。
映画『箱の中の羊』は、5月29日より全国公開。

