脚本家・坂元裕二ドラマはなぜ時代を超えて“刺さる”のか 『東京ラブストーリー』から『初恋の悪魔』まで
そして2021年、世間はコロナ禍となり人と人との関わり方が大きく変化した。そんな年に坂元が生み出したのが、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)だ。40歳・バツ3のシングルマザーで女性社長、という設定盛り盛りな主人公・大豆田とわ子(松たか子)を中心に展開するコメディで、主人公や周囲の人々の恋路を通して様々な“関係性”を描いていく。
『東京ラブストーリー』のリカと比べると、恋愛もして子供もいて、仕事では社長という立場であるとわ子は随分「社会進出したな」という印象でもあるが、このドラマではとわ子を一口に「シングルマザー」「社長」とくくって語るのは難しい。
とわ子は3人の元夫たちに見せる“元妻”の顔、新しく恋仲になりそうな男性に見せる“彼女候補”の顔、娘・唄(豊嶋花)に見せる“母”の顔、そして会社のメンバーに見せる“同僚”そして“社長”としての顔をすべて視聴者に見せる。ずいぶん多面的なキャラクターにも見えるが、よく考えれば生きている人なら全員多かれ少なかれ複数の“顔”を持っている。それをありのまま描いているのだ。
さらに、このドラマに出てくる人たちの関係には名前がつけにくいものが多い。例えばとわ子と元夫たちはしょっちゅう会って交流しているが、もう夫婦でも恋仲でもない。令和になって、そしてコロナ禍を経て、日本社会ではこれまで名前のなかった“関係性”がどんどん増えているはずだ。『大豆田とわ子と三人の元夫』は、それをまるっと肯定したドラマであるとも感じる。
「ひとりでも幸せになれると思うんだよね。無理かな?」「全然余裕でなれるでしょ。なれるなれる」第9話・とわ子/田中八作(松田龍平)
このセリフは、かつて夫婦だった2人が語り合ったものだ。昔よりも、今を生きる私たちが選べる人生の選択肢は増えている。もちろん、「この選択肢を選びたい、でも社会が選ばせてくれない」ということもまだまだ多い。『大豆田とわ子と三人の元夫』というドラマでは、坂元の書く“現実の半歩先を歩く”キャラクターが、そんなまだ選べない選択肢までも肯定してくれているのではないだろうか。