『君たちはどう生きるか』意味深すぎた“鳥”たちを徹底考察! 青サギ・ペリカン・インコが示すものとは
さまざまな解釈のある本作だが、主人公の“敵”を挙げるなら「インコ」だという解釈は一致するのでは。眞人が迷い込んだ異世界では、インコは我々が知る小さくてかわいらしい姿ではなく、大人の人間と同じくらいの背丈でなんだかゆるいフォルムをしている。まるで遊園地で子どもたちを迎える着ぐるみのようではあるが、その手には大きな包丁やのこぎりなど、彼らの元に迷い込んだ“食料”を解体するための恐ろしい道具が光る。
インコは異世界の中心となる建物にぎゅうぎゅうになって住んでいて、それぞれが料理や警備など自身の役割をこなしながら暮らしているようだ。そして現在の“悪意のない世界”に反発し、自分たちがもっと生きやすい世界になるように結託、代表者の“大王”(声:國村隼)と呼ばれるちょっとスマートなインコが、異世界を作った眞人の大叔父に直談判に訪れる。その結果、世界の構造に“悪意”が混じり、崩壊を招くこととなる。
自分たちの元にやってきた“食料”をどん欲に食いつくしては、好き勝手なことをピーチクパーチク言うという意味では、我々観客こそインコであるともいえるのではないか。眞人が迷い込んだ異世界には、これまでのジブリ作品のオマージュと思われる場面が多々見られた。このことから「異世界=ジブリ作品」だと見るならば、作品を享受しておきながら批判的な声を投げ、作品に自分たちの意思をねじ込もうとして文化の崩壊を招く、そんなファンの悪い面こそインコたちの姿であると言えるのかもしれない。
■私たちはどう生きるか せめて「インコ」にならないように
『君たちはどう生きるか』で登場した3種類の鳥たち。彼らは皆、“変化”を求めるが得ることができない者たちだ。青サギは、誰にも理解されず辛い状況を変えたいのに声をあげることができない抑圧を抱えた眞人の心。ペリカンは、他者の命を奪わず平和に暮らしたいのに戦いを抜け出せない兵士たち。そしてインコは、自分たちに都合のいい世界(作品)を求めた結果、その世界そのものを失ってしまうファンの悪意。
変化というのは未来への希望でもあるが、結果として絶望をもたらすこともある。しかし私たちは変化なしには前に進むことはできない。『君たちはどう生きるか』の世界を飛び回る鳥たちは、大叔父の作った“異世界”という鳥かごの中から我々観客に「そちらの世界で君たちはどう変化していくか」を問いかけているように感じる。そしてそれは、御年82歳の宮崎監督から我々へのメッセージでもあるだろう。この先、“宮崎アニメ”がもう生まれなくなる世界で、私たちはどう生きるのか。せめて世界を壊すインコにならないよう、生きていければと思う。(文:小島萌寧)
映画『君たちはどう生きるか』は全国公開中。
※宮崎駿監督の「崎」は「たつさき」が正式表記。