『愛の、がっこう。』中島歩が怪演“川原なにがし”とは何者だったのか “愛”と“執着”のはざまで
「THE JOKER」で傷害事件があった後、百々子の家に泊まった愛実が帰宅すると、彼女の一人暮らしについて誠治が川原に相談している場面に出くわす。「すぐに式の日を決めろ」と詰め寄る誠治の様子を目の当たりにした川原は、「君に対して過保護の域を超えているよね?」と心配する。そして婚約者の自分に対しても電話越しにキレる誠治の異常性を察知して会社での内情を調べた彼は、その内容を愛実に伝えるのだった。
この彼なりの心配や行動の背景には愛実と同じような家庭環境で育ったことが関係しているように感じる。大手企業の執行役員を務めた父と、専業主婦の母に一人息子として育てられた。そして、その父の“勧め”で結婚の話が持ち上がる。意外と、川原も愛実と同じような境遇で、そんな彼だからこそ愛実に共鳴し、彼女の置かれた状況が理解できたのではないだろうか。
■“愛”ではなく、“執着”だったのか
第9話で自分から別れを告げ、カヲルとの交際を後押しするようになった川原。お互い初めてちゃんと本心で話したことで、彼の表情や話し方は憑き物が落ちたかのように晴々としていた。愛実に対して抱いていた感情について、「僕のは執着で、自己中の押し付け」と打ち明けていたが、それと同時に「“あいつの方が”君の事を思ってる」とも言っていたのだ。その微細な表現の仕方から、いつの間にか彼女に想いを抱いていたことが理解できる。後にカフェで百々子に「本気だったんだよ」と言われて、否定をせず少し頷(うなず)くのがほろ苦い。
『愛の、がっこう。』公式インスタグラム
「あんな女性に愛されたかったな」と、こぼす川原。不倫関係にあった女にも決して向けられなかった強い感情。そして愛実がかつてストーカーをしてしまうくらい誰かに向けた強い感情。その“執着心”を向けられる事を、いつしか彼も求めるようになっていたのかもしれない。そう考えると、川原が急に寂しい男に思えてきてしまう。それでも普段から何事も自分の感情でしか考えない彼が、今回は愛実の気持ちを考えて、カヲルから教わった「誰かを愛することの本質」を捉えた行動に出た。その成長に、グッときてしまうのだ。
■「川原さんの気持ちが“執着”でも私はうれしかった」
誰かに“執着”し、その感情が何か身をもって知っている愛実が言うからこそ、意味深いこのセリフ。“執着”もまた、彼らが共鳴し得るものだった。残念ながらそれを互いに向けることができなかったが。愛実のその言葉の意味と意図を噛み締めながらも、改めて想いを断ち切るように「君のことは、これっぽっちも、愛してなかったのだから」と、また下手くそな口ぶりで川原は笑う。そんな彼の男気を見て、“愛”と“執着”の曖昧な境界線を行き来しながら、その意味を私たちに考えさせた存在として、本作にかけがえのない存在だったことを思い知るのだ。
(文:アナイス/ANAIS)
木曜劇場『愛の、がっこう。』は、フジテレビ系にて毎週木曜22時放送。
引用:『愛の、がっこう。』公式インスタグラム(@)