映画『ウィキッド』を舞台版大好きライターが語る! 愛あふれるオマージュから楽曲注目ポイントまで
映画『ウィキッド ふたりの魔女』が、10月11日よりAmazon Primeにて配信スタートしている。超人気ミュージカル『ウィキッド』を映像化し、第97回アカデミー賞で美術賞を受賞した本作。物語の“前半”でありながら2時間半を超える大作となったが、その中にはまさに魔法のような見どころが詰まっている。舞台ファンも、本作で初めて『ウィキッド』の世界に触れた人も夢中になったポイントについて、劇団四季版を愛し映画にもドはまりした筆者が解説する。
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■映像化で広がった“オズの世界”の光と闇
ライマン・フランク・ボームによって児童文学として生み出されたオズの世界。『オズの魔法使い』の前日譚として描かれた『ウィキッド』というミュージカルは、ブロードウェイから始まり日本では劇団四季により何度も上演され、愛されてきた。世界中で受け入れられてきた舞台をどう映像化するのか、そもそもそんなことが可能なのか? ファンたちは一抹の不安もあっただろう。
映画『ウィキッド』で描かれたオズの世界は、そんな小さな心配を吹き飛ばしてくれた。冒頭、画面いっぱいに広がったチューリップ畑(これはCGではなく本物だというから驚きだ)。本当に飛び回る羽の生えたサルたち。そしてシンシア・エリヴォ演じるエルファバとアリアナ・グランデ演じるグリンダに、映画館でスタンディングオベーションするのをこらえるのはかなり難しい所業であった。
映像化されたことでオズの世界はさらに深みを増す。映像ならではの表現で、オズの国にまん延する差別意識や選民思想があらわになったのだ。かつて人間と動物が手を取り合って暮らしてきたオズだが、権力を握るオズの魔法使いの策略によって動物たちは迫害を受けている。以前は多くの動物教師がいたシズ大学からもその姿は徐々に消えていっていた。そんなほの暗い状況は、物語を追うごとにヤギのディラモンド先生や、オズの魔法使い本人の口からセリフで語られるが、実はエルファバたちの入学式の時点で可視化できるモチーフが。エルファバの魔法の力が暴走した際に、オズの魔法使いを描いたレリーフが崩れ落ち、そこから多くの動物教師を描いたレリーフが現れる。このワンカットで、オズの国がかつてどんな国で、それをいかに人間が壊し奪ったのかが物語られる。オズの“表の顔”が崩れ落ち、隠された真実があらわになる展開を予想させる重要なカットとなった。
そのあとには学生たちが本を踏みつけながら「頭を空にして踊り明かすことこそ人生」と歌い踊るシーンも。舞台では、本を投げ捨てるにとどまるこのシーンも、映画ではアクロバティックな演出の足元で踏みつけられていく本が強調される。かつて対等だった動物を下等なものとし、言葉を奪うことで人間の都合のいいように歴史を塗り替えていくオズの国を象徴するようなシーンだと感じずにはいられない。
■『オズの魔法使い』へのオマージュが熱い!
『ウィキッド』は、その元となった『オズの魔法使い』へのリスペクト溢れるオマージュも見どころ。それは物語が始まる前から始まっている。冒頭に表示されるユニバーサル・ピクチャーズのロゴは、現在使われているものではなく、映画『オズの魔法使い』が公開された1939年当時の雰囲気を携えたものに。さらに、劇中に登場する「WICKED PART1」の題字や、ラストの「To Be Continued」の字体にも注目。この丸みを帯びた独特の書体は、『オズの魔法使い』で使われていたフォントを彷彿とさせる。
また、グリンダの登場シーンのドレスの色にも注目。舞台では水色のドレスで登場したグリンダだが、映画ではピンクのドレスをまとう。これは『オズの魔法使い』に登場する善い魔女グリンダをなぞったものだと考えられる。さらに、グリンダが歌う「Popular」で登場する赤い靴は、『オズの魔法使い』で主人公ドロシーが履いていたルビーの靴を思い出させる。他にも、『オズの魔法使い』の映画や原作小説からのオマージュがちりばめられているので、観るたび発見があるはずだ。

