『ドキュメント72時間』、人々が本音をこぼす撮影の裏側
取材時間が72時間というルールについては「私が当時、先輩方から聞いた話では、24時間では起承転結をつける素材が集まらない。48時間だと、同じタイトルの映画と被ってしまう。もう24時間足して72時間がいいのでは?という理由で決まったと言われていています(笑)」。
とはいえ、映し出される映像には、豊かな世界が広がっている。「取材をしていて、目の前を通り過ぎていく人に、当たり前ですけどいろいろなドラマがあるものだなということを気付かされました。偶然が重なり素晴らしいものが撮れる回もあるし、正直、物足りないとご指摘を受けるときもあります。そこも含めて『72時間』らしさなのかもしれません」。
また、「制作していて心掛けているのは臨場感。取材者が打ち解けていく様子を、視聴者と一緒に体験できるような感覚と言いますか。キレイに美しく映画のように撮る必要はないと思っています。ナレーションも必要最低限。編集は時系列で繋いで、なるべく素材のまま出すよう意識しています。3日間を通じて制作サイドの我々がどう解釈したのかを伝えられたら、という思いを込めて制作しています」。
相沢氏が現場に出ていた9年前と現在では、世相の変化を感じることがあるそう。「9年前は多少世の中がキラキラしていた。要因は色々あると思いますが、震災前だったいうこともあるのかもしれません。震災以降は、身の回りの環境が厳しいとおっしゃる方が多くなったと。世知辛い世の中になってしまったけど、辛い境遇を笑顔で語ってくれたり、苦しいけどがんばろうと言って去って行ったりする。人間の強さを感じられることも多いですね」。
映し出される人々が頑張る姿や思いがけないひと言にカタルシスを覚えたり、人生を顧みたりする。鑑賞後は、また頑張ろうという気になれるカンフル剤のような番組。過去の番組が気になるなら、NHKオンデマンドやオンデマンド内の特選ライブラリでチェックしてみて。へこんだときに観れば、下手な慰めよりもずっと身に染みる言葉に出会えるかもしれない。(取材・文:小竹亜紀)