津田健次郎の語りが話題! 朝ドラ『エール』“低音イケボ”に宿る温かな包容力
どこか憂いを含んだ声も魅力の津田だが、これまでに演じた役柄を見てみると、アニメ『遊戯王』シリーズの海馬社長や『無限の住人‐IMMORTAL‐』の万次。洋画の吹き替えでは、『スター・ウォーズ』シリーズで暗黒面に惹(ひ)かれてしまうカイロ・レン、『ブラックパンサー』では主人公の最強の敵・キルモンガーを演じるなど、影や葛藤、孤独を抱えた役にも定評がある。2018年に津田にインタビューをした時には「自分の性格的にも、決してネガティブではないけれど、“太陽よりも月が好き”みたいなところはある」と語り、影を身にまとう役柄への愛着を明かしている。“影”の美しさを表現できる津田だからこそ、“弱さ”を持った主人公・裕一との相性も抜群。裕一に寄り添うナレーションが、愛情深いものとして視聴者の元に届いてくる。
■メリハリを生む表現力がすごい!
また第13話では、ドラマにメリハリを生む、語りの表現の豊かさに驚かされた。裕一が家族のために、銀行を経営する茂兵衛(風間杜夫)の元へ養子に出ていくという悲痛な姿がつづられた第13話。父・三郎(唐沢寿明)から養子に出ていくことを求められ、よその家へ出される寂しさと音楽を諦めざるを得ない悔しさから、裕一は涙を流した。「この公演で最後にする」と決めたハーモニカ倶楽部の定期公演で熱く指揮棒をふるい、演奏が終わると、暗い廊下をひとり歩いていく裕一。「ただ時は過ぎていきました」と静かなナレーションが流れ、家族のもとを旅立つ裕一の姿が視聴者の涙を誘う。
観ているこちらも「これからどうなってしまうんだ…」と重たい気持ちになっていたところにガラリと扉をあけて現れたのが、新天地での仲間となった川俣銀行のにぎやかな面々。津田の「そこで働く人たちはみな、底抜けに明るかったのです」というほほえみまじりのナレーションがなんとも楽しそうで、一気に「よかった! 明日からがすごく楽しみ!」と心が踊った人も多いことだろう。
陰から陽への変化を鮮やかに表現したナレーションで、改めて“語りにも表情がある”と実感させられた。少々ぼんやりした裕一に時折入れるツッコミも愉快! これからは音(二階堂ふみ)との出会いが、裕一にどのような変化をもたらすのかも気になるところ。実力派声優の語りを堪能しながら、裕一の旅路を見守っていきたい。(文・成田おり枝)