映画『クレヨンしんちゃん』が示す、実写×アニメの境界線を超える未来
■岩井俊二、古沢良太、野木亜紀子…アニメーションに進出する実写の一流たち
実は近年、実写の脚本家、それも一流どころの脚本家がアニメーションに進出する機会が増えている。例えば、映画監督・映像作家・脚本家の岩井俊二は、『花とアリス殺人事件』(2015年公開)で監督・製作・企画・プロデュース・原作・脚本・音楽等に至るまで全てを手掛け、新たな岩井俊二ワールドを提示してみせた。
また、古沢良太はドラマと映画で『コンフィデンスマンJP』シリーズを描きつつも、同時期に(執筆時期はもっと前だった)アニメーションでコンゲーム(信用詐欺)を題材とした『GREAT PRETENDER』(2020年)の脚本・シリーズ構成を手掛けている。
『GREAT PRETENDER』の場合、『コンフィデンスマンJP』と題材が同じで、マフィアや詐欺、麻薬、賭博、売春などの裏社会が描かれている作品だ。しかし、古沢ならではの一人一人のキャラの背景の掘り下げ方の深さと、二転三転する展開の巧みさ、エンタメ性の高さ、さらに『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行によるキャラクターデザイン、『進撃の巨人』で知られるWIT STUDIOの制作による色彩の強さ・鮮やかさが組み合わされることで、見事な化学反応となり、独特な色気を放つ大人のアニメーションになっている。
また、2021年に公開が予定されているアニメーション映画『犬王』では、古川日出男の著書『平家物語 犬王の巻』を湯浅政明監督がアニメ化し、キャラクター原案は湯浅監督がテレビアニメ化した漫画『ピンポン』の作者・松本大洋が担当。さらに脚本は、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』『MIU404』など、今、最も売れっ子で、緻密な構成力が評価される脚本家・野木亜紀子が手掛ける。湯浅政明×松本大洋×野木亜紀子という名前の並びが放つワクワク感はすごい。
逆に、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などをはじめとした、多数のアニメ作品の原作・脚本やシリーズ構成で知られる岡田麿里は、2017年頃から実写作品の脚本も手掛けており、現在も、原作・脚本を手掛けたドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(MBS・TBS系)が放送中で、山田杏奈、玉城ティナ、横田真悠ら旬の女優たちをそろえ、瑞々しくも、ちょっと痛く、美しい作品となっている。
実写畑の脚本家が手掛ける脚本は、「カロリーが高くなる」(作画等の手間がかかる)など、勝手の違う部分はいろいろあるようだし、逆もクリアしなければいけないノウハウの違いがあるだろう。しかし、特殊なジャンルは除き、人間ドラマを描くことに対して、「アニメーション」「実写」という分野によって棲み分けされているのは、考えてみればちょっとナンセンスな気もする。
映画版『クレヨンしんちゃん』や、『コンフィデンスマンJP』『GREAT PRETENDER』は、そうした境界線を越えることで生み出される新たな化学反応を示し、これからの作品のあり方の可能性を大きく広げるきっかけになるのではないだろうか。(文:田幸和歌子)