『ナウシカ』では苦い経験も 海外版ポスターで振り返る「スタジオジブリの名作たち」
■よりミステリアスな『千と千尋の神隠し』
第75回アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた『千と千尋の神隠し』(2001)。豚になった両親が消え、暗闇が増したアメリカ版ポスターでは、小さく映る街のミステリアスさをより感じさせ、謎の世界に立ち向かう一人の少女にフォーカスしたような仕上がりとなっている。右下にぼうっと浮かぶカオナシの存在がなんとも不気味だ。
(左から)『千と千尋の神隠し』(2001)のアメリカ版ポスター、日本版ポスター 写真提供:AFLO
ちなみに、本作の全米配給を行ったのが、ウォルト・ディズニー・スタジオ。特に尽力したのが、宮崎駿監督と1987年から交流があった、『トイ・ストーリー』の監督ジョン・ラセターだった。米TIMEによると、本作の知名度を上げるために、米Variety誌へ全面広告を出すなど、さまざまなキャンペーンを展開したという。米国の日本アニメ研究の第一人者であるスーザン・ネイピア氏は、同記事で、この宣伝活動がアカデミー賞につながった理由の1つだと語っている。
■『風の谷のナウシカ』の苦い出来事
しかし『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞を取るまで、スタジオジブリ作品の海外配給には苦い出来事が多数あった。『風の谷のナウシカ』(1984)もそのうちの1つ。アメリカ版のビジュアルを見ると、ナウシカらしき女性が端に追いやられ、男性キャラクターが中央に配置された派手なデザインになっている。タイトルも『WARRIORS OF THE WIND(風の戦士たち)』と少々ずれたものに。
『風の谷のナウシカ』アメリカ版ポスター
叶精二による『宮崎駿全書』(フィルムアート社)では、「改悪英語版」として一連の事件について記されている。簡単に言うと、宮崎監督が知らない間に、英語吹き替え版が作られていたのだ。さらに、宮崎監督の猛抗議もかなわず、本編が116分から97分にカットされ、キャラクター名も変更に。まさに「改悪英語版」となってしまったが、2005年にディズニー・ビデオから、直訳した『NAUSICAA OF THE VALLEY OF WIND』という英題で、ノーカット英語吹き替え版のDVDとVHSが発売されている。