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『呪術廻戦』夏油 傑の“変化”は本当に闇落ちだったのか? 櫻井孝宏が語る静かな決意と痛み

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■「いい人」だった――櫻井孝宏が語る、夏油 傑の本質

――夏油 傑というキャラクターに、いま改めて感じる魅力は?

櫻井:夏油には、うまくいかなかったことへの切なさ、そういう感情が常に付きまとっている気がします。それはもう、彼がこの物語の中で担う役割の構造的な部分でもあるので、どうしても避けられない“被害”のようなものとして感じるところがあります。でも、やっぱり“いい人”なんですよね。とても優しくて、常識もあって。その根底にある優しさは、きっと五条の存在があったからこそ、より強く引き出されていたんだと思います。

五条に対してかける言葉って、自分自身にも向けているようなものが多くて。「呪術は非術師を守るためにある」という信念も、彼が自分に言い聞かせてきた言葉のひとつなんじゃないかと感じています。表に見せている部分と、見せていない部分。その“裏側”が、ずっと彼の中にはあったんじゃないかと思います。そういう部分に触れると、改めて彼の中にある柔らかく優しい一面が見えてくる気がします。

そして、本人にはあまり自覚がないかもしれませんが、どこか“色気”もあるんですよね。見た目の印象もあると思うんですが、それだけではなくて、彼の発想の源や、考え方の筋道、そういう人間的な部分にも、ふと感じる色気のようなものがある。それが、彼というキャラクターに惹きつけられる理由の一つでもあるように思います。

『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』場面カット(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
――ご自身と共鳴する部分はありますか?

櫻井:夏油が少しずつ傾いていってしまう気持ちというのは、どこか分かってしまうところがあります。彼は、どうしても“力”を求めてしまうんですよね。かつては、五条とともに「私達は最強なんだ」と言えていた関係だったのに、いつしか“五条 悟が最強”になっていく。その変化の中で、いろいろなことが少しずつ、悪い方向へ傾いていってしまう。彼の中で、そんな風にして“力を求める思い”が膨らんでいったのだと思います。

そこに、ある種の切なさや、美しさのようなものを感じることもあります。まっすぐであるがゆえに、壊れていってしまう。その姿に、何か胸を打たれる瞬間があるんです。自分と重なるかどうかで言えば、正直に言うと“似ている”とは思っていません。でも、彼の気持ちに触れたとき、間違っていた部分もあっただろうなとは思いながらも、「分かるな」と感じてしまうことがある。

だから、“共鳴”というより、“どこか理解できてしまう”という感覚に近いかもしれません。完全には重ならないけれど、そっと寄り添ってしまうような。そんな距離感で、彼を見ている気がします。


――夏油 傑という人物を一言で表すと、どんな言葉がしっくりきますか?

櫻井:これは本当に難しいんですけど……一言で表すなら、「少し悲しい人」かなと思います。やっぱり彼の優しさが、いろいろな行動の根っこにあるんですよね。その優しさゆえに、力を求めてしまった部分もあると思いますし。

そして、彼は“意義”や“意味”を求め続ける人間です。作中でも何度もそういう言葉を口にしていますが、そもそもそうやって「生きる理由」や「行動の根拠」を問い続けるような人なんですよね。だからこそ、彼の言葉や選択が、傍から見ると少し切なく映る。その純粋さや一途さが、どこか物悲しく見えてしまう瞬間があるんです。

思えば、夏油という人は、どこか“かすかな悲しみ”を漂わせている存在だと思います。それが彼の魅力であり、そして同時に、彼という人物の影でもあるのかもしれません。

――夏油自身にも、「自分を理解してほしい」という思いがあった?

櫻井:そうですね。夏油の能力って、ギフトのようでいて、本人にとってはある種の呪いでもあったと思うんです。だからこそ、その力に苛まれていた部分もきっとあって、それを「自分でコントロールできるようにしたい」という気持ちはあったでしょうし、あるいは、そこに“別の理由”を上乗せするようなこともしていたのかもしれません。

「呪術は非術師を守るためにある」そんな高潔で美しい信念を掲げることで、自分の中にある辛さや苦しさに蓋をする。つまり、「そういう自分であろう」とすることで、自分自身の本当の思いから少し距離をとっていたのではないかと。

だからこそ、周囲の人たちは、夏油のことを“美しく誤解してしまっていた”ように感じるんです。彼の行動を理想や信念に基づいたものだと思い込んでいたけれど、実際には、もっと内側にくすぶっていた感情や現実があって。それは、夏油本人にしかわからないものだったと思います。

周囲から見れば、彼が突然姿を変えたように映るかもしれません。でも、夏油にとっては、ずっと少しずつ、じわじわと何かが積み重なっていた。そして、唯一それを理解できたかもしれないのが五条だった。夏油にとって、五条の存在は、彼自身を保つための支えのようなものでもあったのかもしれません。

でも、その五条が変わっていってしまった。その変化が、二人の間にあったバランスを崩してしまったのではないかと思います。

『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』場面カット(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
――最後にファンのみなさんへメッセージをお願いします。

櫻井:テレビシリーズをご覧になった方にも、ぜひ劇場で本作を観ていただけたらと思っています。

一つの作品としてまとまることで、これまで気づけなかった部分や、見逃していた感情の流れに触れられるのではないかと感じています。

私自身、改めて今回の劇場版総集編を観たとき、冒頭の夏油の独白から始まる“アニメーションならではの演出”がとても印象的でした。その表現が、劇場という環境だからこそ、より深く心に響いてくるんです。

夏油の心情に寄り添いやすい構成になっているのはもちろんですが、それだけでなく、彼らの青春、学生時代の大切な時間が丁寧に描かれています。ぜひ、映画館という素晴らしい環境で、その空気ごと感じながら観ていただけたら嬉しいです。


(取材・文・写真:吉野庫之介)

 『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』は、5月30日公開。

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『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』櫻井孝宏インタビュー

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