斉藤由貴、今年デビュー40周年 あの頃から変わったこと、変わらないこと
――1985年に「卒業」でレコードデビューされて、すぐ『スケバン刑事』が始まり、相米慎二監督の映画『雪の断章 -情熱-』があり、翌年には朝ドラ『はね駒』があり、年末には紅白歌合戦の司会、さらに翌年には帝劇で『レ・ミゼラブル』。デビューから3年目までに大きな仕事を一気に駆け抜けられたんですよね。
斉藤:本当に自分で言うとバカみたいなんですけど、デビューしてあらゆることがボーンと行ったので、すごいとか思う暇すらなかったのが正直です。
――この40年の中で、ターニングポイントになったような出会いや作品を挙げるとするとどんなものになりますか?
斉藤:一番大きな出会いと思えるような出会いがいっぱいあったので、選ぶのは正直難しいです。そういう「うわぁ~これは大きい出会いだな」と思うものがいくつも積み重なって今があるという感じ。
ただこの40年やってきて、すごく思いがけない昨今の発見としては、あんなに本当に気を失うくらい忙しかった初期に働いたあらゆることが、今の自分にものすごく大きな糧として返って来ているということ。40年経って、あの時あんなに頑張っていたことが自分にとっての助けになったりするなんて、すごく不思議な運命だなと感じています。
――デビュー初期と比べて、ここは変わらないなと思うところはありますか?
斉藤:行き当たりばったりなところですね。すごく傲慢な言い方をすると、多分この仕事って、きちんと正確にやることを求められているのではなくて、その時その時の一瞬のエネルギーの爆発みたいなものをお客様に誠実に届けることのほうが優先だと思うんです。「きちんとやりますよ」「上手にやりますよ」「完璧にやりますよ、観てください!」ではなくて、その時何か自分の表現の中にリミッターを超えた発露というか感情の爆発みたいなものがあって、そのエネルギーの放出がお客様に届くのではないかと思うんです。
だから、きちんと準備しようとか、ちゃんと正確にやろうとか全然思っていないところがあって。覚えてなくたって、順番通りにやれてなくても、その時いかにガチ勝負で、なんだったらお客様にケンカ売るじゃないですけど、それくらいの真剣勝負の瞬間が一瞬あって、それでお客様を納得させられなければダメだと思っているところがある。それは歌の世界でも、舞台の世界でも、ドラマの世界でも。すごく乱暴なやり方だけれど、その一瞬をいかに捻出できるかが大事だと思っています。それはたぶん最初のころから変わってないと思います。
――逆に変わったところはどこでしょう?
斉藤:自分自身をプロデュースする計算をちゃんとする、客観性みたいなものを持てるようになってきました。何かきっかけがあってとかではなく徐々にでしょうか。自分の人生でもいろんなフェーズがあっていろんな経験をして、それを全部ひっくるめてどんなふうに自分を演出していくことが、表現する人間として見ている人に見たいと思ってもらえる価値を維持できるかというのをすごく考えるようになりました。
要はお客様に「わ!この人面白い!」「この人どこに行くんだろう?」「見ていたい」「目が離せない」と思ってもらえるかどうかがすべてだと思うんです。「わ!上手」とか「きちんとやってる」とか、そういうところではないところに多分本質があって、それを感じてもらえなかったら負けなんだなと思います。
――この作品に斉藤由貴さんが出演しますと聞くと、どんなお芝居を見せてくれるんだろう?と気になって見たくなる女優さんであることは間違いないです。
斉藤:でもハラハラもするでしょ?(笑)。たぶんね、それは変わらないと思います。
――今回の作品でのバルシュカもとても楽しみですが、今後、どんな“女優・斉藤由貴”を見せていきたいという思いをお持ちですか?
斉藤:「こういう作品を」っていう欲が実はそんなになくて。その時その時、与えられた仕事を利用して、自分がものすごく集中できる瞬間を体験できたらいいなっていう気持ちなんですよね。『Once』のプロデューサーのいるところですごく言いづらいんですけど(笑)、作品のためにというのはあまり考えてなくて、どんな集中した真剣勝負を行えるかっていうところに主軸を置いています。ある意味すごくエゴイストなんですよね。
もちろんお客様には感謝しているんですが、お客様のためにというより、その瞬間自分がどんなに集中して歌を歌えるか、どんなにいい表現をできるかっていうことだけにフォーカスしている。「見てください」じゃなくて、「そうやってやってる自分をどうぞ見てください」っていう感じなんです。エンターテインメントの表現の仕方っていろんな種類があるんですけど、私にはそのやり方が合っている。
「みなさん!見てください!」っていうのもエンターテインメント。でも私は、自分に内省していって自分の集中を高めていくこと、それを見たいと思ってもらうこと、固唾を呑んでたとえ私が後ろを向いていてもそれを見たいと思ってもらうこと、それが私にとっての大事なエンターテインメントのやり方というか。
こういう作品をやりたいっていうのはなくて、仕事をもらえるのだったらそこでどれだけ集中できるのか。集中を極めて針の先っぽみたいなものを突き詰めていくことが、たぶんものすごく気持ちがいいことなんですよね。そうしたことにやりがいがあるので、これからもそれを模索していく、その一点に尽きるかもしれません。
(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)
ミュージカル『Once』は、9月9日~28日東京・日生劇場にて上演。その後、10月4日・5日愛知・御園座、10月11日~14日大阪・梅田芸術劇場 メインホール、10月20日~26日福岡・博多座にて上演。