『チェンソーマン』戸谷菊之介&楠木ともり デンジとマキマの“映画館デート”収録は「いい思い出」
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楠木:今回の劇場版にあたって音響監督の名倉靖さんと話したことですが、一つの象徴としてマキマは手が届きそうで届かないのが魅力で、レゼは手が届かなさそうで届いちゃうのが魅力だと感じています。どちらともデートシーンがありますが、マキマとレゼにギャップがあった方が良いし、しゃべる距離感なども両者のタイプの違いを意識した方がより入り込めるんじゃないかという話をしてから収録しました。もちろんレゼ自体が魅力的で引き込まれるキャラクターであることは言うまでもないですが、マキマと対照的である・位相が違うことは忘れないようにしていました。
楠木ともり
――戸谷さんはレゼとのシーンを演じる中でも、常にマキマを意識していたのでしょうか。
戸谷:そうですね。マキマさんのことが好きだけどレゼのことも好きになっちゃってどうしようという気持ちは常にあったかと思いますし、少しずつデビルハンターとしてマキマさんに認められてきた今の生活に満足している気持ちもあり、レゼに「好き」と言われても素直に受け取れないつらさや迷いも同時にありました。
(左から)レゼ、デンジ 劇場版『チェンソーマン レゼ篇』場面写真 (C) 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト (C)藤本タツキ/集英社
――テレビシリーズに比べると、デンジの感情が複雑化しましたよね。
戸谷:デンジは本当に何も持っていない状態からスタートして、マキマさんに色々と与えてもらって少しずつ普通の生活ができるようになってきました。そうした意味では、『チェンソーマン』はデンジがさまざまなものを獲得していく物語といえるかと思います。その中で「レゼ篇」では「恋をする」という新たな経験をしますが、デンジ自身はきっと「あんまりよく分かってないけどそのまま行っちゃえ」みたいな感覚もあったかと思います。
もちろん感情が複雑化した部分もあり、さまざまな出来事に直面して悩みはしますが、根本の素直さは変わっていないと僕は思っています。
――常に目の前の出来事に対して新鮮に反応し続けるといいますか。実にデンジらしいですね。
戸谷:それこそデンジは衝動的なセリフも多いですから。ただ、台本には色々と書き込んでいるのでちょっとお待ちください(と台本を取って戻ってくる)。
楠木:結構書き込むタイプなの?
戸谷:そうですね。台本を読む段階で、セリフ一つひとつにどういう流れでどういった感情があるか、状況などもイメージしながら書き込んでいます。
(左から)戸谷菊之介、楠木ともり
楠木:そうなんだ、面白い! なかなか隣の人の台本をのぞき込むことはないので新鮮です。
戸谷:例えば今の生活の話をしているくだりで「口にするとだんだん申し訳ない気持ちが大きくなってくる」とディレクションいただいたのですが、そういった言葉も書き込むようにしていました。現場ではそうした解釈を上乗せして演じていきましたが、演じている最中は没入しているのであまりはっきりとは覚えていません。
――没入型の戸谷さんと俯瞰でロジカルに構築される楠木さんのアプローチは、欲望に忠実なデンジとミステリアスなマキマに重なりますね。
戸谷:僕は完全にそのタイプで、ちょっと馬鹿馬鹿しいかもしれませんが「自分がデンジだと思い込んでやる」というタイプの演じ方しかやってきませんでした。
楠木:私は作品によりますが、マキマに関しては気持ちをひも解いて演じる中で、気持ちを乗せるとニュアンスが出すぎてしまい、受け取り方として最適な形でなくなる可能性があると考えるようになりました。そこで、マキマの気持ちよりもストーリーにもたらす影響や役割に重きを置いて「デンジから見たマキマ像」でしたり、物語を俯瞰したときに「いまのマキマのセリフや行動が後々に何に影響してくるか」を考えて、先回りするような形で演じているため確かに対照的かもしれません。
マキマ 劇場版『チェンソーマン レゼ篇』場面写真 (C) 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト (C)藤本タツキ/集英社
――最後に、おふたりが『チェンソーマン』に出演されてどういった“初体験”をされたかを教えてください。
戸谷:僕にとっては初主演作で、何もかもが初体験のような状態でした。アフレコでどうやったらうまくできるかのやり方を少しずつ分かっていったのが『チェンソーマン』テレビシリーズでした。本作を通してさまざまな方に僕の声やお芝居を聞いていただけたおかげで色々な作品に出られるようになりましたし、ファンの皆さんからの声が届くようになって「すごいことが起きた」と日々感じています。
楠木:私も「声優をしています」と自己紹介をした際に「『チェンソーマン』のマキマ役です」と言うと通じるうれしさを日々感じています。普段あまりアニメを見ていない方――例えばお世話になった学生時代の恩師や友人からも「見ているよ」と言ってもらえたり、時には驚いていただいたりすることもあって、すごくうれしいです。
(左から)戸谷菊之介、楠木ともり
私は元々マキマを演じたくてオーディションを受けていて、受かった際にひとりで喜んでいた気持ちがいまやたくさんの人と分かち合えているうれしさもありつつ、発表時にファンの方からの期待も大きく感じていたため責任感もあり、自分にとって大切な作品の一つになっています。
(取材・文:SYO 写真:上野留加)
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』は、9月19日より公開。