上田麗奈が映し出す、感情の温度――危うさと儚さ、その声に宿る想い
――先ほどおっしゃっていたように、比名子は周囲との距離感もどこかいびつな印象です。
上田:そうですね。他のキャラクターと話していても、ふとした瞬間に比名子は“海の底に沈んでいる”ような感覚をまとっているんです。人当たりは良く、一応会話もできるけれど、本心から笑顔になることはなく、どこかずっとひとり。周囲と馴染んでいるようで、実は馴染めていない、少し浮いているような印象があります。
その根っこには、比名子が感じている、とある強い想いがあると感じます。だからこそ、第1話で汐莉と出会うシーンも印象的で。比名子の視点から見れば“普通”でも、客観的に見ると常軌を逸しているように映る部分がありました。
――汐莉・美胡との関係性についてはどのように感じましたか?
上田:汐莉は、最初に会ったときからとても怪しげで、何を考えているのか分からない。その掴めなさに、少し怖さを感じました。会話をしても飄々としていて、こちらのペースを許さないまま、強引に踏み込んでくる。比名子が無意識に人を振り回すタイプだとしたら、汐莉は意図的に揺さぶってくるタイプだと思います。
でも、その強引さの奥には、“喰べる”という目的だけではない何かが見え隠れする。すべてを知ることはできないけれど、まっすぐな芯を感じさせて、嘘ではないと思わせる。そんな不思議な魅力があります。
汐莉と話していると、比名子はいつも感情を揺さぶられて傷つくことも多く、「なんでそんなことを言うの」と思う瞬間や、「ほっといてほしい」と感じる場面もある。あの瞳もあって、どこか見透かされているような感覚が常にあって。死なせてくれるなら、関わっていくしかない。そんな距離感がずっとあります。
アニメ『私を喰べたい、ひとでなし』場面写真(C)2024 苗川 采/KADOKAWA/わたたべ製作委員会
美胡は、比名子がほの暗く湿った印象だとしたら、その真逆。カラッとしていて、まるで太陽のような存在です。その明るさと強い存在感は、「この子がそばにいれば、比名子じゃなくても心強いだろうな」と思わせるほど、場の空気を一瞬で変えてくれる力があって。
とくに、比名子に対する美胡の気持ちは、私自身とても共感しやすくて。彼女が比名子への想いを語るシーンは、納得しながら聴いていました。声が入ったことで、その魅力がより鮮明に表れていたと感じます。
アニメ『私を喰べたい、ひとでなし』場面写真(C)2024 苗川 采/KADOKAWA/わたたべ製作委員会