東山奈央が大切にする、心を通わせるための一歩「あなたと仲良くなりたいっていう気持ちさえ伝われば、それだけで十分」
――作中ではマリーとの生活を通じて“人間嫌い”のアーサーが少しずつ変わっていく様子が描かれますが、東山さんご自身が“人との距離の縮め方”で普段意識していることはありますか?
東山:いやもう、そんな魔法みたいな方法があるなら、私が教えてほしいくらいですよ(笑)。人と人って、それぞれ考え方も感じ方も違うから、「こうすれば絶対うまくいく」っていう正解がないのが、すごく難しいところだなって常々思っていて。MBTIだって16タイプもあるくらいですし(笑)。
そんな中で私が意識していることがあるとすれば……「あまり気にしすぎないこと」かもしれません。たとえば、「あの時あんなこと言わなきゃよかったな」とか、「傷つけちゃったかも」とか、「言葉選びを間違えたかも……」って、気にしようと思えばいくらでも気にできちゃうじゃないですか。でも、案外人って、そこまで気にしてなかったりするんですよね。
私自身も、誰かに何か言われてもそんなに引きずらないですし、たとえちょっと「ん?」と思うことがあったとしても、「ま、いっか」って流すことの方が多いです。だから、自分が誰かと距離を縮めたいと思ったときも、多少不器用でも、「あなたと仲良くなりたい」っていう気持ちさえちゃんと伝われば、それだけで十分なんじゃないかなって。
たとえ少し間違えたとしても、思いがちゃんと届いていれば、相手もきっと受け取ってくれる。そう信じて、ポジティブな気持ちで向き合うようにしています。うまくいかないこともあるけれど、それでも“伝えようとすること”が大事だなって思いますね。
――たとえば、最初の一歩として「これ、人にやったら喜ばれるかな」といった気遣いを大切にしたり?
東山:うーん、自分だったら「こうしてもらえたら嬉しいな」って思うことはあるんですけど、それが本当に相手にとっても嬉しいことかどうかっていうのは、やっぱり人それぞれ違うので、正直あまり確信はないんですよね。
「自分が嬉しい=相手も嬉しいはず」って思いすぎると、それはちょっとエゴになっちゃうのかなとも思うので、いつも手応えがあるわけではなくて。でも、だからといって何もしなかったら、それはそれで何も生まれないなとも感じていて。
結局は、自分が「これ、いいことだな」って思えることが浮かんだら、あまり深く考えすぎずに素直にやってみる。喜んでもらえたらラッキー、もしそうじゃなくても「まあ、ドンマイ!」くらいの気持ちで(笑)。そんなふうに、自然体でいられるのがいちばん無理がなくて、心地いいんじゃないかなって思います。
――そうした行動まで含めて、「あまり気にしすぎないこと」が大切なんですね。また、東山さんが「この人と今後も付き合っていきたいな」と思える人には、どんな共通点がありますか?
東山:物事をポジティブに受け止められる人には憧れますね。私は根っこの部分がけっこうネガティブなほうなので、何か起きると、まず嫌なところが目に入っちゃうんです。不安になったり、先のことを考えて落ち込んでしまったりして……。
でも、私が「いいな」と思う友達は、たとえピンチに直面しても「ここから学べることがあるよね」とか、「むしろ面白くない?」って、さらっと言える人なんです。そういう前向きな視点をもらえると、自分では見えていなかった景色に気づかされて、「あ、そうかも」って思えるんです。
特に印象に残っているのが、声優仲間の西明日香ちゃん。ずっと昔に肺気胸で手術を受けたそうなんですが……普通ならビクビクしちゃうじゃないですか。でも西ちゃん、「なんか肺をコソコソされてるの、くすぐったいかも!」って言ったそうで(笑)。それを聞いたお医者さんも「手術中に笑ってる患者さん、初めて見ました」って驚いていたらしくて。もう、そのエピソードを聞いたとき、「やっぱり西ちゃんすごいな」って思いました。
無理して前向きなことを言うんじゃなくて、ナチュラルにそう思える。そういう人って、やっぱり一緒にいると救われるし、尊敬するなって思います。
――最後に、放送を楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。
東山:マリーとアーサーは、それぞれ苦しい過去を抱えながらも、ようやく“自分を理解してくれる存在”に出会います。その姿を見て、「運命の人って、本当にいるんだな」と感じました。お互いを大切に思い合うふたりの関係性からは、あたたかくて優しい空気が生まれていて、作品の現場全体にもその温もりが広がっていたように思います。
この作品には、クスッと笑えるような軽やかな楽しさがありながらも、心の奥にじんわりと染み入るような、繊細な感情が丁寧に描かれています。「見てよかった」と思っていただける、そんな優しさに満ちた物語になっていると思います。
原作ファンの方も、今回初めてこの作品に触れる方も、きっと心に何かが残るはずです。どうか最後まで、あたたかく見届けていただけたら嬉しいです。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
テレビアニメ『機械じかけのマリー』は、10月5日よりTOKYO MXにて毎週日曜22時放送。ほか各局にて順次放送開始。