悠木碧「自分の引き出しにはない芝居が必要だった」 “師匠たち”から受け取ったもので挑んだ『羅小黒戦記2』
――そんなルーイエを実際に演じてみて、いかがでしたか?
悠木:とにかく、あの愛くるしいシャオヘイを“かわいいと思わずに演じる”のが一番大変でした(笑)。原音でルーイエを演じられた方のお芝居が本当に素晴らしくて、すごく引き算の効いた演技をされていたんです。勝手なイメージで、海外の声優さんは感情を大きく乗せて表現されることが多いのかなと思っていたのですが、今作のルーイエはむしろ“引き算の美学”で成立していて。その絶妙な塩梅にとても感銘を受け、参考にさせていただきました。
一方で、シャオヘイのリアクションがとても豊かなので、黙っているルーイエがより強く見えるというバランスも自然と生まれていたと思います。私自身も引き算の芝居を意識して、「ここだ!」という瞬間だけかっこよく出すようにしていました。とはいえ、音響監督からは「かっこよくしすぎないで」とも言われていて(笑)。最終的には、彼女の中にある柔らかさを見せるために、「かっこよくしすぎずに、2ミリだけ少女を残してください」という、とても繊細なオーダーをいただきました。
映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』場面カット(C)2025 Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
――その絶妙なバランスを表現するのは、かなり難しかったのではないでしょうか。
悠木:難しくもあり、すごく面白かったです。私の感覚では、足し算の芝居よりも引き算の芝居のほうがずっと難しいんですよね。余白の中に感情を残すというか。これまで悩みながら積み重ねてきた表現の経験が、今作でようやく活かせた気がします。
――出来上がった映像をご覧になって、いかがでしたか?
悠木:モブキャラクターも含め、ほとんどのキャラクターに細かい設定があるそうで、背景や世界観まで徹底的に作り込まれていることに驚きました。まるで一つひとつの存在が呼吸しているようで、映像の立体感が本当にすごいんです。前作から感じていたことではありますが、今作では登場キャラクターがさらに増えた分、作品の厚みがぐっと増した印象でした。
アクションシーンも圧巻で、特にルーイエはムゲンと同じく“金属”を使って戦うので、動きがとてもアクロバティックなんですよ。彼女以外にも個性的で魅力的なキャラクターが多く、どの戦闘シーンも見応え抜群。今作の大きな見どころの一つだと思います。

――特に妖精たちは曲者揃いですよね。悠木さんが印象に残ったキャラクターはいますか?
悠木:印象に残っているのは、戦闘シーンで登場した甲と乙ですね。あの場面でルーイエが手段を選ばず戦っていたのは、彼らと組んでいたからこそだと思うんです。決して手を緩めないルーイエと、どこか甘さが出てしまう甲と乙。その対比がとても面白くて、印象に残りました。
――映像美や魅力的なキャラクターたちの背後には、「自然破壊」や「他者との共存」といったテーマも流れています。悠木さんは本作を見て、どんなことを感じましたか?
悠木:もともとは人間と妖精の戦いとして始まる物語なんですが、進むにつれて対立関係も変化していきます。結局のところ、異なる種族だから争っているわけではないんですよね。誰もがそれぞれに個性や考えを持っていて、相手の話を聞かずに意見をぶつけ合えば、同じ種族であっても衝突が起きてしまう。その過程で、どれだけの痛みや犠牲が生まれてしまうのか……。そこを丁寧に描いている作品だと感じました。
人間と妖精という構図は、実はどんな社会や文化、コミュニティにも当てはまるものだと思います。ルーイエはシャオヘイの考えを「甘い」と言いますが、本当にそうなのか? 相手の話をきちんと聞かなければ、本質は見えてこないんじゃないか。本作は、そんな問いを見る人に投げかけている気がします。
――シャオヘイとルーイエにとってムゲンが師匠であるように、悠木さんにとっての師匠となる存在はいますか?
悠木:たくさんいます。いろんな現場を経験させていただいたからこそ、本当に多くの方から学ばせてもらいました。声優を志すきっかけをくださった沢城みゆきさんは、今でも変わらず大好きで、お芝居にもずっと憧れています。生き方や考え方という面でいえば、母が師匠かもしれません。
そして、ルーイエのような役は自分の引き出しにはない芝居が求められたので、これまでの現場で受け取ってきたものを参考にさせてもらいました。現場を重ねるたびに、新しい“師匠”が増えていく。そんな感覚がありますね。

(取材・文:米田果織 写真:吉野庫之介)
映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』は、11月7日より全国公開。

