多部未華子「自分って古い人間なんだな」――価値観を揺さぶられた新発見
江戸川乱歩賞作家・佐野広実の小説を映像化した『連続ドラマW シャドウワーク』で、長年の暴力により自己を喪失し、すべて自分のせいだと追い詰められている主婦・紀子を演じた女優・多部未華子。これまであまり経験したことないような重い境遇の役に、多部はどう向き合ったのか。その挑戦の裏には、想定外に明るかったという撮影現場と、自身の価値観を揺るがすほどの新たな発見があったという。
【写真】多部未華子、美しさと透明感あふれる撮りおろしショット!
■「怖いもの見たさ」から始まった、未知への挑戦
これまで快活でポジティブな役柄のイメージが強い多部だが、本作で演じるのは、夫からの抑圧で季節の感覚さえ失ってしまった女性だ。自身にとって「あまり演じたことがなかった」という悲しい境遇の役。そのオファーは、未知なる領域への好奇心を掻き立てた。
「普通の主婦に見えるのに、実は裏で壮絶な経験をしていて、さらに逃げ込んだ先では住人たちの“秘密の行い”に直面し、戸惑うことになる……。そういうシリアスなミステリーのオファーをいただくことがなかったので、とても新鮮でした。それに、ほとんど女性だけで演じる現場ってどういう感じなんだろう、という興味もありました。女優さんがたくさん集まったらどうなるのかなという怖いもの見たさのような気持ちもあり(笑)。いろんな意味で挑戦でしたね」。
『連続ドラマW シャドウワーク』場面写真 (C)佐野広実/講談社 (C)2025 WOWOW
演じる紀子は、DV被害の当事者。だが、多部の周囲にはそうした経験を持つ人はいなかった。だからこそ、役作りは想像を絶する。夫に洗脳され、自分が悪いのだと思い込む心理状態に「信じられないなという気持ちはありました」と正直な戸惑いを明かす。役へのアプローチは、手探りの連続だった。
「紀子は本当に口数が少なく、脚本にも『……』というト書きがすごく多いんです。喋っていないけれど、何かを感じたり、気づいたり、相手の気持ちに寄り添ったりする。その『……』で語られるシーンの中で、紀子なりの寄り添い方が表現できていたらいいな、と。視線の動かし方一つにしても、監督やカメラマンさんと『もうちょっと目を上げた方が決意に見えるんじゃないか』といった細かな話し合いを重ねて、みんなで思考を凝らしながら作っていきました」。

