細田守監督、新作『果てしなきスカーレット』で描きたかった「報復の連鎖の先」
細田守監督最新作『果てしなきスカーレット』が、11月21日に公開となる。「人は何のために生きるのかを問う、骨太な力強い映画を目指したい。今、この大きなテーマを、観客と一緒に考えたい」という細田監督の想いから始まった本作は、主人公の王女・スカーレットが父の復讐に失敗するも、《死者の国》で再び、宿敵に復讐を果たそうとする物語だ。このたび映像完成直後の細田監督に話を聞き、本作に込めたメッセージのほか、映像のこだわり、さらに監督自身の死生観を反映したシーンについてなど、たっぷり語ってもらった。
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■報復の連鎖の先には何が――監督が描きたかった“復讐劇”
――本編はつい数日前に完成したばかり(※取材時)と伺いましたが、今の率直なお気持ちを聞かせてください。
細田:これまでにないチャレンジがたくさんあり、完成までに非常に時間もかかりました。完成したばかりということで、できることはすべてやりきった、という感じです。今は皆さんに楽しんでもらえたらいいなと思っているところです。
――本作の企画の始まりや、テーマ・メッセージを教えてください。
細田:今まで扱っていなかった“復讐”をテーマにしています。「報復の連鎖の先には何があるんだろう」と考えながら作りました。というのも、今作を作り始めたのがちょうどコロナ明けのタイミングで、やっと苦しい時代が終わったと思ったら、世界中でいろいろな争いが起こり始めて……。それを見ているうちに「報復の連鎖の先」について深く考えるようになり、このテーマを思いつきました。
復讐劇の元祖といえば、シェイクスピアの『ハムレット』。それが本作のモチーフの1つになっています。「復讐劇」ってエンターテインメントの王道ジャンルなんですよね。憎むべき敵を倒して解決する、スカッと爽快な物語。過去に東映アニメーションに勤めていた頃も、復讐劇をベースにした作品が非常に多かった。
しかし現実は、悪人を倒す=幸せ、という単純なものではない。双方に正義があって、一方が復讐を果たしたら、もう一方の復讐劇が始まってしまうだけ。結局、復讐劇の後に続くのは“悲劇”なのではないでしょうか? 本作の完成までに4年かかり、その間に世界の情勢が良い方向に変わっていけば良かったのですが、現実は残念ながらそうなっていないですよね。いまだに戦争は終わらず、非常に複雑な気持ちです。未来を生きていく今の若い人は、先行きが不透明な世界に戸惑っているのではないでしょうか。どこかでそのループから抜け出さないといけないけれど、簡単に抜けだせるほど甘いものじゃない。では、どうすれば良いのか、という想いが今作には色濃く反映されていると思います。
映画『果てしなきスカーレット』場面写真 (C)2025 スタジオ地図
――タイトルにある「果てしなき」とは、終わらない連鎖を指しているのでしょうか?
細田:復讐が果てしなく続く、という受け取り方もできますし、むしろその反対に、争いを終わらせようとする試みを果てしなく続ける、という解釈もできます。僕たち人間は呪いのように争いを続けていくのかもしれない。でもこの後の世界を生きていく若い人が、新しい考え方を編み出してループを終わらせてくれるかもしれない。そんな希望を持った言葉として名付けたつもりです。
――『ハムレット』をどのように反映させているのでしょうか?
細田:学生時代にTVで中継された舞台版を見たのが大きいです。蜷川幸雄さんが演出、ハムレット役が渡辺謙さん、荻野目慶子さんがオフィーリア(ハムレットの恋人)を演じていました。それがものすごい迫力だったんです。オフィーリアは狂気の中で死んでゆくかわいそうなキャラクターとして演じられる事が多いのですが、荻野目さんが演じたオフィーリアには、不幸な運命に抗う力強さを感じました。僕は、オフィーリアが悲劇のヒロインとして死にざまを美しく描かれがちなことに昔から反発があって、そうではなくもっと力強く描かれるべきなのではないかと思っていたので、それをまさに荻野目さんが体現していたんですよね。その印象がスカーレットの造形に表れていると思います。

