渡辺謙、「このままではダメだ」方向転換した30代 1本の映画との“運命的な出会い”
それでも、撮影を重ねていくうちに、一歩ずつ、マシューと足並みを揃えていったという渡辺。撮影の合間には、お互いのキャリアについても話し合ったそうで、「マシューも僕も、俳優として大きな転換期があった。マシューはラブコメディーで一気にスターの座を獲得したが、“これはまずい”と感じ、2年間、何百本というオファーを全て断って、奥さんの愛情を支えに耐え抜いた」としみじみ。「僕も30代の終わり頃、マシュー同様、“このままではダメだ”と方向転換した時期があって、そんな時に『ラストサムライ』と運命的に出会った」。お互いに「そういう時期ってあるよな」という共感が、撮影を重ねるうちに両雄の絆を深めっていったのだろう。
そして、見事な方向転換を成し遂げた渡辺は、世界に通じる俳優として、様々なハリウッド大作で圧倒的な存在感を示してきた。だが今回は、インディーズ作品で、しかも、かつて見たことのない役どころ。「僕にとっては大きな挑戦だった。ある種、存在を消していくような役柄、“実線”ではなく“点線”のような影の薄い存在をどう表現していくのか。そこが難しかった」と振り返る。
「世界放浪中の俳優。ビジョンもなくさ迷っています。出口はあるのか?」これは、渡辺のツイッターに記されたプロフィール。まるで本作のキャッチフレーズのようだが、あえて今回の役柄を渡辺に問い掛けると、「僕の役の答えは探さないでほしい、探さなくても答えは見えてくるから」と意味深な返し。見えない何かが、しかもとても大切な何かが、観る者の魂を揺さぶる、不思議な映画が誕生した。(取材・文・写真:坂田正樹)
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