“失われてしまった場所”に帰ること――『風の電話』で諏訪敦彦監督が描いたもの
■日本を代表する名優たちが魅せる芝居を超えたリアル
面白いのは、三者三様、役者としてのアプローチが全く違うところ。ハルと同じ被災者でありながら、原子力発電所で働いていたことに負い目を感じる森尾を演じた西島について諏訪監督は、「俳優としての立ち位置がわからず、苦しみもがいていた」と述懐する。「実際に切実な問題を抱えるクルド人の悩みを、“森尾”として聞くシーンがあるのですが、あれだけのキャリアがあり、今や日本のトップスターである西島さんが、『俳優としてどう存在すればいいのかわからなくなった』と悩んでいました。ただ、逆に言えば、何も悩まず、平然とやってのけていたら、全てが台無しになっていたかもしれない。苦しくて何も言えない…それは、役と本気で向き合う西島さんだからこそ生まれた自然な感情。森尾という役にたじろいだり、戸惑ったり、葛藤している姿がとても美しかった」と、その真摯(しんし)な姿勢を称えた。
(C)2020映画「風の電話」製作委員会
一方、西島と同じ諏訪ファミリーの三浦は、台風による被災経験があり、離婚によって家庭も崩壊、現在は認知症の母を介護する公平を熱演。粗野だけれど、「とにかく食え」「生きてりゃいいんだよ」とハルを思いやる精一杯の言葉が妙に胸に突き刺さる。「あのシーンは良かったですよね。お母さんを介護しているからこそ、自然に出てくる言葉。三浦さん演じる公平のハルに対するスタンスが、この映画の方向性を決めてくれた」と三浦の即興芝居を絶賛。さらに、「三浦さんは、シーン全体のことを考えてくださる方で、『この人はなぜこうなっているのか』とか、『お母さんとどう暮らしてきたのか』とか、事前に僕といろいろやりとりをしながら、少しずつご自身の中でシーンを固めていたようです。だから、台本があるとかないとか関係なく、ハルの言葉や表情に反応しながら公平を自然と演じられていた」と感嘆した。
(C)2020映画「風の電話」製作委員会
そして今回、諏訪組初参加の西田敏行。震災、それに伴う原発事故によって傷つけられた故郷・福島への複雑な思いを爆発させる今田という男性役で登場するが、諏訪監督が「スタートをかける前にもう芝居が始まっていた」というほど、やる気がみなぎっていた。「僕の方からリクエストしたのは、『なんでもいいので、歌を1曲、歌ってほしい』ということだけ。あとは西田さんに全ておまかせしたんですが、いやぁ驚きましたね。情景を思い浮かべながら、『あのキラキラした風景、また戻って来ないかなぁ』としみじみ語るシーンは、本当に実感がこもっていました」と、芝居を超えた西田の思いに心を寄せていた。
震災で心に傷を負ったハルが、旅の中で出会う人々を通じてあたたかさに触れ、再生する姿を優しく静かにつづってゆく本作。「生きていくという力を観た方に与えられれば」と語る諏訪監督の思いを、ぜひ劇場で受け取ってほしい。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『風の電話』は公開中。
(C)2020映画「風の電話」製作委員会
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