「今はもっと楽しみたい」M・ナイト・シャマラン監督が若い時の自分に伝えたいこと
作品を発表するごとに賛否両論を巻き起こすM・ナイト・シャマラン監督が新たに挑んだのは、一晩で急激に老いるビーチの謎を描いたタイムスリラー『オールド』。27歳の時に『シックス・センス』を監督し、世界的成功を収めたシャマラン監督だが、その後の道のりはヒットメーカーゆえの苦難に満ちたものでもあった。年齢と共に時間についてよく考えるようになったというシャマラン監督が、「今はもっと楽しみたいと思う」と話す真意とは。また、若い時の自分に伝えたいことも聞いてみた。
【写真】一晩で急激に老いるビーチの恐怖! 『オールド』フォトギャラリー
●「普通の人が変だなと思うことに興奮するんだ」
――本作は、3人の娘さんがシャマラン監督に贈ったグラフィックノベル『SANDCASTLE(原作)』が原作になっています。原作のどういった部分に惹(ひ)かれて映画化を決意したのでしょう?
シャマラン監督:私は、普通の人が変だなと思うことに興奮するんです。例えば『ヴィジット』(2015)以降、私は自分でお金を出して映画を作っているんですが、裸のおばあさんが壁をかきむしっている映画に、自分の家を担保に入れてまで資金提供するようなことは普通しないと思うんですよね(笑)。挑発的なものだったり、観た人が“変な感じ”のするものを作りたい。原案となったグラフィックノベル『SANDCASTLE(原作)』にも、まさにその“変な感じ”がありました。普通の人にとってのクレイジーは、私にとってのグレイトなんです。
映画『オールド』 (C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
――本作を作る際に、コロナ禍を意識しましたか?
シャマラン監督:映画のメインのデザインはパンデミックのずっと前に決まっていて、全然意識はしていなかったんです。ところが不思議なことに、キャラクターのセリフとかは、今、パンデミック下で私たちが感じていることを言っていたり、そういう偶然がこの映画の中では起こっています。出来上がってすぐ身近な人間に映画を観てもらったら、まるでこのパンデミックを予測して書いたかのようだよねと言われました。
●フィルム撮影は「狂気の沙汰」 それでも「デジタルではビーチの“あたたかみ”を表現できない」
――今回フィルムで撮影されたと伺いました。コロナ禍というだけで困難な中、フィルムでの撮影は大変ではなかったですか?
シャマラン監督:(うんざりした表情で)恐ろしい…とにかく恐ろしい試みだったよ(苦笑)。フィルムでの撮影は本当に大変だったんです。狂気の沙汰でした! さらに製作費を自分で出しているので、周りからは気が狂ったんじゃないかと思われました(笑)。
映画『オールド』 (C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
もちろん映画を作るにあたり、バックアップのバックアップ、そのまたバックアップのプランを用意していました。LAがシャットダウンしてしまい、代わりにローマで撮影しようと思ったんですが、もしローマもダメになったら、フィルムを冷凍保存して、世の中が再開するまで待たなければいけないかもしれないという恐ろしい状況でした。なぜすごく難しいとわかっているのに、この決断をしたかというと、やはりビーチを撮影するときは、デジタルでは“あたたかみ”みたいなものが出ないんですよ。デジタルだとなかなか伝わらない。ジャングル、水、ビーチなど、自然のものはフィルムでないと再現できないと思ったので、私にとってフィルムで撮影することはとても大事でした。
――ビーチという限られた場所での物語でしたが、撮影が特に難しかった場面を教えてください。
シャマラン監督:ビーチでの撮影ということで、非常に慎重に考えました。まずビーチの地図を書いて、崖の角度や、海にどれぐらい近いかなどを考慮しつつ、戦略が必要な難しい撮影でした。ストーリーは1日の物語ですが、1ヵ月以上かけて撮影を行っています。朝のシーンは朝、昼のシーンは昼、夜のシーンは夜といった具合に、3パートに分けて撮影し、まるで全く違う3つの映画を撮っているようでした。急激に歳を取っていくことで、俳優も変えなければならないことも非常に難しかったです。とにかく複雑でしたが、そこは私のインド人的な感覚が非常に役に立ちました。きっと私の両親は、インド人特有の科学的な側面を使ってアートを作り上げたことを、大変喜んでくれたんじゃないかと思います。
映画『オールド』 (C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.