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ツイッターでの批判きっかけに対談が実現 ふくだももこ監督×児玉美月が語る『ずっと独身でいるつもり?』

映画

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ふくだももこ

児玉美月

■エンドロールにある“救い”

児玉:さて、もう一人私が気になった登場人物は、まみのお母さん(筒井真理子)です。あのキャラクターは、従来の性別役割規範の下で「母」や「妻」として生きざるをえなかった女性で、エプロン姿で台所に立っている姿の印象が強いです。ある意味で「犠牲者」の側面が強調されて見えたので、そこが観ていて辛いところだったんですが、エンドロールで流れるまみとお母さんの電話での会話が救いのように感じました。

声だけが流れる演出で、お母さんの姿が見えないからこそ、オルタナティブなお母さんの姿を想像することができて…。そのあたりの演出と、母と娘の会話を映画の最後に持ってきた意図について、ふくだ監督なりのお考えがあれば教えてください。

『ずっと独身でいるつもり?』場面写真 (C)2021日活
ふくだ:まみのパートは始まりもお母さんとの電話で、ちょうど中間にも二人で話すシーンがあり、終わりも電話です。今、児玉さんのお話を聞いて、まみのパートに関して言えば、この映画は“母と娘の物語”だったのだと気付きました。やっぱり娘にとって、結婚観や家族観は母親からの影響が大きいと思っています。ヤマシタトモコさんの『HER』という漫画に「娘に訪れる全ての幸福も災厄も母親に由来する」というセリフがあって、とても共感しましたし、自分にとって創作の根源にもなっている言葉の1つです。

娘にとって母親の姿は、将来の自分の姿であり、一番の友であり、敵でもあり、世代が違うから生き方は変えられるはずだけど、母親がまみに呪いをかけるような瞬間もたくさんあります。一方でまみに「夫の言いなりになったらいけない」というのは、初めて娘に本音を話した瞬間だったと思うんですよ。実は、終盤でまみが結婚するのを辞めたと番組で宣言する姿を見ている母親が、「まみらしい」と笑う反応も編集段階では入れていました。ただ、ほかの3人の女性とまみの連帯があったので、最終的にカットしましたが、最後の電話で、母親がまみの決断に好意的であったことがわかればいいと思って。児玉さんのように、観客それぞれが想像してくれればうれしいなという思いを込めて、あの終わり方にしました。

■ふくだ監督が本作で感じた“反省”

児玉:最後に全体的な演出についてお伺いします。ふくだ監督の前作『君が世界のはじまり』(2020)では、目元のクロースアップのショットが繰り返し使われていて、登場人物たちが自分の生きている世界の光景を俯瞰(ふかん)して眺めているような演出が記憶に残っています。今回の『ずっと独身でいるつもり?』では、佐藤由紀乃(市川実和子)が叫びながら自転車をこぐシーンや、美穂が「ジルスチュアート」のリップを握りしめて六本木で泣くシーンなどが顕著ですが、ロングショットで後ろに風景を大きく映して、そのなかに彼女たちが埋没しているように見えました。

ふくだ:素晴らしい見解をありがとうございます。私はこの映画を“東京の物語”だとも思っていたので、たしかにそういう演出になっているかもしれません。ただ、本当に最初から一貫して、この作品に対してどういう気持ちでいたらいいかもわからず、私自身が宙に浮いているような感覚がありました。出来上がった映画を客観的に観て、ふと「あぁ、私自身は背景だったんだな」と思いました。街の一部として彼女たちのことを見ていたのかもしれない。だから視線も定まっていない。寄り添っているわけでも、突き放しているわけでもないという、曖昧な立ち位置にいました。ただ今回は、入り込みすぎずにいてよかったのかなとも思います。もし自分が違う立ち位置で撮っていたら、婚姻制度への批判だったり、それこそもっと顕著に男女の対立構造になってしまったりと、まったく違った映画になったような気がします。この映画はあくまでも“彼女たちの物語”なので。

児玉:本作が面白いのは、その「ねじれ」にあると思うんです。結婚について同じ悩みを共有できている女性たちだけで撮られたわけではなく、ふくだ監督のような「結婚に興味ない」と公言されている方が監督を務めているという、「ねじれ」そのものにあるのではないかと。

『ずっと独身でいるつもり?』場面写真 (C)2021日活
ふくだ:そうですね。私はもうまったく結婚というフェーズになくて、結婚って意味ある? という感じになってしまっていて。ただ、やっぱり私みたいなのは少数派で、周りのほとんどの女性たちはびっくりするくらい悩んでいるんですよ。だから、もともと田中みな実さんを撮りたい気持ちもあったし、田中さんを好きな女性たちで、映画の中の人物たちと同じような悩みを抱えている層にも届いたらいいなという思いでした。でも最近、これでもか! というくらいに、反省しています。

児玉:それはどういった反省なんですか?

ふくだ:この映画の企画を引き受けた理由の1つに、これまでよりも予算規模が大きい映画に挑戦したかったというのもあったんですけど、しばらく経って振り返ると、なんでこんなにシスジェンダーの異性愛者しか出てこないんだろうって…。

児玉:ふくだ監督のこれまでのフィルモグラフィを振り返ると、メインテーマであるか否かにかかわらず、性的マイノリティーが登場していたことが多かったので、その意味でも例外的な映画かもしれないですよね。

ふくだ:そうですね。今までの映画では「この人が私の世界の中心だ」とか「この人とだから家族になりたい」など、人物の感情を性別でくくらずにいました。ただ、本作を経たことで、もう今後はシスジェンダーの異性愛者しか出てこないような映画を、絶対に撮らないという明確な意思が固まりました。『ずっと独身でいるつもり?』という映画に対する私の1つの答えは、「友達がいたらだいたい大丈夫!」というものです。さみしさは友達によって埋まることは多々あります。さみしくてどうしようもない夜に「うちらがおるやん!」と言って肩を組む、友達みたいな映画だと思って観てもらえたらうれしいです。(文:児玉美月)

 映画『ずっと独身でいるつもり?』は全国公開中。

■ふくだももこ

ふくだももこ監督
1991年生まれ、大阪府出身。2015年、若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)に選出され、短編映画『父の結婚』を監督、脚本。2016年、小説『えん』がすばる文学賞を受賞し小説家デビュー。2017年、小説『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』を発表。 2019年、山戸結希企画・プロデュースのオムニバス映画『21世紀の女の子』で『セフレとセックスレス』を監督。また、『父の結婚』を自らリメイクした『おいしい家族』で長編監督デビュー。監督作として『君が世界のはじまり』(2020)、ドラマ『深夜のダメ恋図鑑』(ABCテレビ・テレビ朝日系/2018)、『カカフカカ−こじらせ大人のシェアハウス−』(MBS/2019)、演劇『夜だけがともだち』など映画、テレビ、舞台演出と幅広く活動中。また本作が自身の出産後初の監督作品でもある。

■児玉美月(映画執筆業)

映画執筆家・児玉美月氏
「リアルサウンド」、『キネマ旬報』(キネマ旬報社)、『映画芸術』(編集プロダクション映芸)、『ユリイカ』(青土社)、劇場用パンフレットほか多数。直近では、『アニエス・ヴァルダ 愛と記憶のシネアスト(ドキュメンタリー叢書)』(neoneo編集室)、『ジョージ・A・ロメロの世界──映画史を変えたゾンビという発明』(Pヴァイン)へ寄稿。共著に『「百合映画」完全ガイド』(星海社新書)がある。

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