木村多江、“薄幸系”から“怪演女優”へ 「面白い俳優になりたい一心で突き進んできた」
日本中に考察ブームを巻き起こしたドラマを映画化した『あなたの番です 劇場版』で再び“怪演キャラ”に挑み、よるドラ『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(NHK総合/毎週月曜22時45分)では驚きの再現度で阿佐ヶ谷姉妹を演じるなど、女優・木村多江の進化が止まらない。「面白い俳優になりたい一心で突き進んできた」という木村は、“怪演女優”と呼ばれることについても「うれしいです。怪演できるような役って、なかなか出会えるものではないですから」と柔らかな笑顔。今年50歳という人生の節目を迎えて「今はまた0歳になったような感覚」という彼女が、これまでのキャリアを振り返りながら、転機や50歳という年齢の持つ意味について語ってくれた。
【写真】“ミキサー主婦”も、“阿佐ヶ谷姉妹”も、この癒やしのほほ笑みから生まれる! 美しすぎる木村多江
◆『あな番』の台本は「脚本家からのラブレターであり挑戦状」
2019年4月から2クールにわたり日本テレビ系で放送された『あなたの番です』。ドラマでは、幸せいっぱいの新婚生活を始めた年の差夫婦が、住民たちの“交換殺人ゲーム”に巻き込まれていくさまが描かれたが、劇場版はドラマとは違った“もしもの世界”が展開する。映画化がかない、木村は「登場人物のほとんどがいなくなってしまっているし、“私、出られるのかな?”と思っていた」とお茶目に笑いながら、「もしもの世界になるということで、またみんなに会える!とうれしくなりました」とワクワクしたという。
映画『あなたの番です 劇場版』ポスタービジュアル (C)2021『あなたの番です 劇場版』製作委員会
登場人物の誰もが個性的で「この人が犯人かも?」と思わせるような怪しさたっぷり。展開としても常に視聴者を驚かせる仕掛けが施されているが、木村は本シリーズの脚本について「脚本家からのラブレターであり、挑戦状のよう」と分析。振り切った演技を求められる場面もあり、「どう応えたらいいんだろうというプレッシャーもあり、そう思えるような機会をいただけた喜びと、やってやるぞという闘志が湧いてくるような台本」と役者冥利(みょうり)に尽きるものなのだとか。
映画『あなたの番です 劇場版』場面写真 (C)2021『あなたの番です 劇場版』製作委員会
その言葉も納得なほど、本シリーズで木村が演じた専業主婦の榎本早苗役も強烈な役どころ。ほんわかとした笑顔を持ち、誰からも好かれるような住民会の会長…と思いきやドラマの第10話で早苗が豹変(ひょうへん)。一人息子を溺愛するあまり、ミキサーを持って暴れまくる狂気の女性となってお茶の間を驚かせた。早苗には“ミキサー主婦”との異名がついたり、「木村多江の芝居がすごい!」との声が上がり大いに話題となったが、劇場版では一体どのような姿を見せてくれるのか。
木村は「早苗はまたやらかしています」とコメント。「水難事故に遭ったよう」と水に関わる場面が多いと明かし、「私はあまり泳げないので、家のお風呂でイメージトレーニングをして。あー、このシーンのことかと笑いながら楽しんでいただけたらうれしい」と期待していた。
◆薄幸女優から、怪演女優へ「40代はプレゼンの時期」
『あな番』を通して、“怪演女優”と呼ばれることも増えた木村。改めてドラマの反響を振り返ってもらうと、「10話を観た友達からは、“日本列島が震撼(しんかん)したよ”と言われて(笑)。これでしばらく頑張れるなと思いました」と新たなやる気にもつながったと話す。
早苗が豹変する回の台本のト書きには「“般若のような顔をする”と書いてあった」そうで、「来た来た来たー!と思って」とにっこり。「『あなたの番です』の台本にはセリフだけではなく、そうやって脚本家からの熱い要望が書いてあるんです。最も大事にしていたのは、なぜ早苗はそうなってしまったのかという動機や彼女の人間性をきちんと出すこと。“形でやらない”ということを大切にしていました」と早苗の心に真っすぐ向き合った。早苗のことが「大好き」と破顔しながら、「振り幅が大きくて、毎回チャレンジをさせていただける役。早苗は追い詰められて、焦ると人生の選択を間違えて暴走してしまうんです。でもそれって誰にでもありうること。人間の滑稽さ、弱さ、愚かさと愛おしさを表現できる役だと思っています」と語る姿からもいかに役柄に愛情を注いでいるかが伝わる。
“怪演女優”と言われるまでには、“薄幸系”といわれる役柄を演じることも多かったが、「20代はずっと“コメディーをやりたい”と言い続けていた」という。「でも私たちはいただいた役を一生懸命にやることが使命。いただけるものを追求していったら、“薄幸系”と呼ばれるようにもなって(笑)。そうやって歩みながらも、とりわけ40代は、“似たような役だけではなく、新しい役も演じていきたい”、“プレゼンの時期だ”と思ってお仕事に臨んできました。常に次のお仕事をいただけるか分からない世界で生きているので、役者としてはプレゼンをしていくことも必要」と癒やしのほほ笑みの裏側に、芯の強さと役者業への情熱が浮かび上がる。