私は告発する――“大逆転の救世主”エミール・ゾラの姿も 『オフィサー・アンド・スパイ』新場面写真
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第76回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞した、巨匠ロマン・ポランスキー監督最新作『オフィサー・アンド・スパイ』が6月3日より公開される。このたび、歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した本作より、ドレフュスを救った作家エミール・ゾラなどを捉えた場面写真が解禁された。
【写真】エミール・ゾラ誕生日記念!『オフィサー・アンド・スパイ』新場面写真解禁
本作は、歴史的な冤罪事件“ドレフュス事件”を壮大なスケールで描く歴史サスペンス。当時のフランスで国家の土台を揺るがすような深刻な分断をもたらしたこの事件を、ポランスキー監督が、いわれなき罪を着せられた男と真実を知らしめようとする主人公の壮絶な運命の物語として描き出す。第76回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞したほか、第45回セザール賞で3部門(監督・脚色・衣装)を受賞した。
1894年、フランス。ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)が、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。ところが新たに情報局長に任命されたピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。上官に対処を迫るが、国家的なスキャンダルを恐れ、隠蔽をもくろむ上層部に左遷を命じられてしまう。全て失っても尚、ドレフュスの再審を願うピカールは己の信念に従い、作家のゾラ(アンドレ・マルコン)らに支援を求める。しかし、行く手には腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いが待ち受けていた…。
劇中で、ドレフュスの無実を晴らそうと奮闘するも、軍の中で孤立していく主人公ピカールに救いの手を差し伸べるのが、「居酒屋」や「ナナ」などの名作で知られる世界的な作家エミール・ゾラ。ゾラのもとを訪れた失意のピカールに「私ならドレフュスを救える」と語り、当時の一大メディアである新聞に「私は告発する」と題した大統領宛の公開状を掲載。そして、事件の揉み消しを命じた将軍、誤判定を下した筆跡鑑定士などを次々と名指しで激しく弾劾する。この記事は当時の世論に大きな衝撃を与え、ドレフュス再審を求める動きを活発にし、後に無罪を勝ち取るきっかけとなった。
そんなゾラの誕生日である4月2日の本日、解禁された場面写真は10点。ゾラの公開文書が掲載されたオーロール紙を、世紀のスキャンダルだとして売り子が力強く訴える様子や、ゾラ(アンドレ)とラボリ弁護士(メルヴィル・プポー)の2ショットなど、逆転劇の展開が気になるような場面が切り取られている。
ポランスキー監督は「ゾラの半生を描いたアメリカ映画で、ドレフュス大尉が失脚するシーンを見て打ち震えました。その時、いつかこの忌まわしい事件を映画化すると自分に言い聞かせました」と、本作を製作するきっかけはエミール・ゾラの映画だと明かしている。
当時ゾラは、ドレフュスを救うきっかけを与えるものの、誹謗中傷の罪で告発されてしまい、イギリスへの亡命を余儀なくされる。事件を通して当局を強く批判したことから国家主義者たちの怒りを買い、敵視される存在となってしまったのだ。本作でも、ゾラの著書が炎の中に投げ捨てられたり、ユダヤ人が経営する店の窓ガラスが割られたりするなど、激しい暴動の様子が描かれている。まさに救世主のごとく身の危険も顧みず、国家権力に抗いながら真実と正義のために闘った男。本作では、そんなゾラの勇姿も垣間見ることができる。
本作の字幕監修を務めたのは、反ユダヤ主義関連の研究でも知られる思想家・武道家の内田樹氏。内田氏は本作について「ポランスキーは大戦中のフランスでユダヤ人狩りから逃げ回るという痛ましい少年時代を過ごした。彼はそのトラウマからついに自由になれなかった。彼の映画に“底知れず邪悪なものへ”の恐怖が伏流しているのはそのせいだと思う。この映画も例外ではない」と語っている。
映画『オフィサー・アンド・スパイ』は6月3日より全国公開。