『あんぱん』“いせたくや”を好演 ミセス大森元貴が示した表現の可能性
関連 :
バンド活動で培われた「他者の音を聴きながら自分の音を出す」という感覚は、共演者との掛け合いで最も生きていた。特に印象的だったのは、柳井嵩役の北村匠海、健太郎役の高橋文哉との3人のシーンだ。回を重ねるごとに呼吸がピタリと合い、リズミカルで緩急のある会話が展開されていた。
まるでバンドのセッションのように、それぞれが相手の「音」を聴きながら、自分の「音」を重ねていく。単なる台詞(せりふ)のやり取りを超えた、距離の近さと積み重ねてきた関係性が感じられた。音楽では各パートが調和しながら一つの楽曲を作り上げるが、演技でも同じように、3人それぞれの個性が響き合いながら、一つのシーンを作り上げていた。この場面は、大森のアンサンブル感覚が最も発揮された瞬間だったかもしれない。
実際、大森は積極的にアドリブも取り入れていた。原菜乃華演じるメイコとのシーンでは「台本にないセリフも言ってみました」と本人が語っており、メイコが「素人のど自慢」に出場するため歌を練習する場面で、「もっとお腹から声出して!」といった言葉を即興で投げかけたという(※4)。視聴者からも「アドリブっぽいな」「素が出てる」といった反応があり、自然な演技として受け入れられていた。
■抜群のコミュ力も発揮!
こうした演技での会話の呼吸の良さの背景には、大森のコミュニケーション能力がある。現場では「僕、大丈夫ですか?」と素直にスタッフに尋ねたり(※5)、台本の感想を冗談めかして語ったりしたという(※6) 。飾らない姿勢が、共演者との信頼関係構築に貢献したのだろう。
実際、大森のコミュニケーション能力は、バラエティ番組でも発揮されている。2025年6月放送のMrs. GREEN APPLEの冠番組『テレビ×ミセス』(TBS系)では、3人でMCを務め、ゲストの魅力を引き出しながら、自らも話題を提供するトーク力を披露。『沸騰ワード10』(日本テレビ系)への出演時も、素直で飾らない姿勢が話題となった。
こうした柔軟なコミュニケーション能力は、『あんぱん』の撮影現場でも発揮されていた。相手を立てながら場を和ませる力、自然体でいることで周囲の緊張をほぐす力――これらが、3人での会話シーンをあれほど自然に成立させた要因の一つだったのかもしれない。
ライブで培われた経験は、NGテイクへの対応にも表れていたという。ライブでの予期せぬトラブルへの対処経験が、撮影現場での柔軟な対応につながった。ツアーで様々な現場を経験してきたことも、新しい環境への適応に役立ったと考えられる。数万人の観客を前に、親密な語りかけと壮大なパフォーマンスを使い分ける経験は、カメラを通じた視聴者との関係構築にも応用できる技術だった。