ポルノ追加で大炎上、才能を信じ会社倒産──映画史の“天国と地獄”をさまよった底抜け名画たち
今から46年前の1980年に全世界を震撼させた世紀の問題作『カリギュラ』(1979)が、装いも新たに劇場に凱旋中だ。奇しくも『カリギュラ』が封切られた1980年前後は、ハリウッドに若手の天才監督たちが台頭。映画スタジオは彼らの才能を信頼して湯水のように大金を浪費。努力と才能で成功を掴む、“アメリカン・ドリーム”を裏返したような誇大妄想的超大作が次々に誕生した時代だ。理想の映画を目指し、映画が創出しうる「天国」と「地獄」を具現化したような作品群は、いずれも賛否両論真っ二つ。興行は期待値に届かず、当時は失敗作の烙印を押されたが、歳月を経た今は圧倒的な独創性に満ちた名作として愛されている。20世紀映画史の「事件」として記憶に刻まれた、“天国と地獄”の底抜け名作を再探訪しよう。
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※以下、製作費は諸説あり。日本円換算は1ドル=約263円の“カリギュラ”レートで計算。
■『カリギュラ』(1979)
映画『カリギュラ 究極版』 (C)1979, 2023 PENTHOUSE FILMS INTERNATIONAL
古代ローマ帝国の若き皇帝として神と同等の権力を握り、放蕩の快楽に酔い、血みどろの蛮行に狂った男の没落を描く本作は、アメリカの成人雑誌「ペントハウス」誌の社長、ボブ・グッチョーネが製作を指揮。『スター・ウォーズ』(1977)を凌ぐ1750万ドル(46億円)を投じた豪華絢爛な歴史大作として製作されながら、製作者グッチョーネが独断で過激な性描写を追加。破廉恥なハードコアポルノと批判を浴びた。
今回上映されている「究極版」は露骨な性描写を削除、権力の腐敗を風刺したオリジナル脚本に沿って再編集された新バージョン。だが、「映画史の汚点」と叩かれた旧バージョンも公開国の倫理に応じて改変され、道徳観の踏み絵となったのは文化の裏側を覗く点で意味があった。
■『地獄の黙示録』(1979)
予算超過と泥沼現場の常習犯、名匠フランシス・フォード・コッポラの戦争巨編。元々は『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督が温めていた企画で、1902年に出版されたジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」をベトナム戦争下に翻訳したもの。1978年公開の『ディア・ハンター』がアカデミー賞作品賞に輝き、アメリカ映画界は泥沼化したベトナム戦争の意義を問う時期にあった。ベトナムの奥地に独立王国を築いた狂気の米軍大佐と、彼を討つ密命を帯びた主人公が死臭漂う地獄巡りに臨む本作はその総決算になる―。誰もがそう期待した。
映画『地獄の黙示録』(1979) 写真提供:AFLO
しかし、主役の交代や大物俳優とのトラブル、予期せぬ悪天候やコッポラの完璧主義により撮影は大幅に遅延。製作費は当初の1200万ドルから『カリギュラ』の1.8倍に当たる3150万ドル(約83億円)に膨れ上がった。1979年のカンヌ国際映画祭には未完のまま出品され、『ブリキの太鼓』(1979)とパルムドールをダブル受賞。ブーイングを浴びた。とはいえ、映画の前半部分はヘリコプター部隊の急襲を筆頭に、五感を圧倒する凄まじい映像スペクタクルが展開。狂える大佐と対峙する後半は、魂の奥底に迫るかの如き濃密な血の匂いが漂う。
「これはベトナム戦争を描く映画じゃない。まして反戦映画でもない。この映画自体がベトナムなんだ。国家が戦争の狂気を是認すれば人間は理性を失う。巨額の予算、大量の物資を前に、我々も少しずつ正気を失っていったんだ」。なるほど。地獄を見た男、コッポラの言葉は重い。

