ポルノ追加で大炎上、才能を信じ会社倒産──映画史の“天国と地獄”をさまよった底抜け名画たち
■『ザナドゥ』(1980)
『天国の門』には移民たちが束の間、憂さを晴らす“天国の門”というローラースケート場が出てくるが、こちらは地上に降臨した女神がローラーディスコの理想郷を作る物語。人気歌手オリビア・ニュートン=ジョンの主演作で、予算は『カリギュラ』を超える2000万ドル(約53億円)。クライマックスの群舞が展開する歓楽の都=ザナドゥのセットには100万ドル(2億6千万円)が費やされたが、ローラーディスコ文化は短い旬を過ぎており、批評・興行の両面で惨敗した。
オリビア・ニュートン=ジョン(1978年のポートレート) 写真提供:AFLO
本作とゲイ・ディスコグループのヴィレッジ・ピープルが主演する『ミュージック・ミュージック』(1980)の2本立て上映を観た映画宣伝マンのジョン・J・B・ウィルソンは、毎年の最低映画を選出する「ゴールデンラズベリー賞」を設立。『ザナドゥ』は6部門の候補となり、最低監督を受賞した。ちなみに第2回の最低監督賞は『天国の門』のマイケル・チミノである。
■『地獄』(1979)
最後に番外編を1本。当時の日本映画界もやはり大作主義に舵を切り、フランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスが製作に加わり、カンヌ国際映画祭グランプリを制した『影武者』(1980)の製作費が(公開時の宣材曰く)約12億5千万円。日本では映画化不可能と言われた『復活の日』(1980)は軽く20億円を超えた。そんなスケール重視の話題作のなかで、ドス黒い異彩を放ったのが本作。予算面では比較にならないが、誇大妄想的な世界観では追随を許さない。
他社同様、大作路線を狙う東映が日活ロマンポルノ出身の神代辰巳監督を招いて放った恐怖譚で、美しい女レーサーがサーキットに浮かぶ母の生首を目撃。事故を起こして故郷に帰省し、実家の複雑な愛憎関係を知るのが前半。後半は非業の死を遂げて地獄に堕ちた彼らが巨大な引き臼ですり潰され、針の山で串刺しになるトラウマ地獄絵図が待ち受ける。
原田美枝子(写真は2019年)
完成した映画は東映の客層と合わず、洋画系の大劇場「テアトル東京」で単品封切り。呪われた母娘の2役を演じた主演の原田美枝子は宣伝隊長も兼任し、上映館を「テアトル地獄」に改名、入口に卒塔婆を置いて観客を迎えた。映画館を丸ごと買い取り、『カリギュラ』の独占興行を打った製作者グッチョーネとも一脈通じるアイデアだが、場内はガラガラ。公開3週後から東映系劇場で若松孝二監督の『餌食』(1979)と2本立て興行を始めるも、東映史上未曾有の不入り作品となった。閑古鳥地獄が明けた「テアトル東京」の後番組は、劇場を祓い清めるかの如き『天地創造』(1966)だった。
いろいろ書いたが、個人的にはどれも思い出深い作品ばかり。気分が高揚する盆暮れ正月には必ず観返す定番映画だ。華やかで力強く、それでいて儚い。人力で編んだ霞のような「天国」と「地獄」に垣間見る一瞬の夢。過ぎたひとつの時代を象徴する名画たちなのだ。(文:山崎圭司)

