志尊淳、胸キュンから怪演まで…この6年の進化と真価
その裏には、俳優としての着実な経験の蓄積がある。2017年5月の初主演舞台『春のめざめ』では、多感な思春期を迎えた少年の憤りや苦悩を生々しくも幻想的に表現。公演前に本人が「自分の全てをさらけ出したい」と言っていた通りの体当たり演技で高評価を得ている。また、見た目や声はもちろん、所作やオーラまで完ぺきなトランスジェンダーの女性・小川みきを演じた『女子的生活』では、事前の勉強をもって入念に役作りに取り組み、「女よりも女らしい」という評価を得た。
実は志尊はデビュー直後の2012年に『青空の卵』(BS朝日)でも女装の青年役に挑んでいる。原作は『女子的生活』と同じ坂木司の小説だ。彼が演じた“人魚姫”は、盲目の大学生の後をつける謎の人物で、実は歌舞伎の女形役者。トランスジェンダーではないものの、女装や女性のしぐさを取るという部分では『女子的生活』と共通点が多い。当時から抜群に美しい女性姿の志尊は、一つひとつの動きが丁寧でキレイだったが、俳優業を始めたばかりのフレッシュ感がありありと見えて微笑ましさも誘う。
それがわずか約6年後、同じ原作者の『女子的生活』では女性姿に艶めかしさもプラスし、たとえ仕草が男性的になったとしてもしっかり女性の匂いを残す名演を披露。所作そのものの技巧より、存在ごと役の人生を生きるようになった。この2作の違いに、役者としての志尊の進化と真価が見られる。
端正な見た目を活かした美青年、その清廉さを容易に裏切る演技力の基盤の厚さ。年齢を問わないキューティーさを自在に操り、時には性別すらも超えて“魅せる”こともできる。『半分、青い。』では「ボクって…」が口癖の藤堂誠(通称:ボクテ)を演じ、朴訥(ぼくとつ)さとかわいらしさを併せ持ったゲイになりきっているが、『劇場版ドルメンX』ではピュアでがむしゃらな宇宙人役。今秋の『走れ!T校バスケット部』では生来の運動能力を生かし高校生を熱演している。今後はどんな予想外の演技を見せてくるのか。楽しみでならない。(文/松木智恵)