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『天国と地獄』日高と彩子の間に「信頼」という愛が生まれたのはいつからか

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 そして、第8話。死亡時刻の関係から日高に犯行が不可能だったことがわかり、彩子は「クウシュウゴウ」の正体を突き止めたことについて日高に言う。「お兄ちゃんのかばい立て。それはなんとなくわかるけど、どんな理由があるにせよ、人殺しは人殺しでしょ」「フォロワー100万人の人気者だろうが、死んでも誰ひとり気づかないおっさんだろうが、善人だろうが悪人だろうが、どんな人でも殺されていいわけないし、同時に誰かを殺すことも許されない。私はそういう当たり前のこと言ってるだけだけど?」。

 それに対し、日高が「その当たり前がここのところ成り立っていない世の中だと感じているもので」と言うと、真正面からにらみつけ、「どんな事情があれ、ここを譲ったらすべてがなし崩しになる。死守すべきルールってもんが人間にはあると思わない?」と投げかける。「自分の顔でド正論ぶつけられるのってのもテレるもんですね」と笑う日高(外見は彩子)だが、これはやっぱりうれしそうに見える。まるでどんな状況であっても、彩子だったら止めてくれるんじゃないかと信じているかのように。

 そして、第9話。元に戻った彩子が東を殴りつけ、「私はあんたをあわれんだりしない。今までどんなひどい目に遭ってきたとしても、どんな人生だったとしても、こんなに思ってくれる人を叩き落せるなんて、あんたは正真正銘のサイコパスだから!」と言うのだ。

 私たちの多くは、小さな頃から「相手の立場に立って考えること」を親や先生に教えられて育ってきた。それは大切な力である一方で、“自分にとって見える・想像しうる範囲内の相手”の立場からのみ考えることで、真実が見えなくなってしまうこともある。それは例えば、自分や家族・友人・知り合いの範囲を超え、さらに地元も国も超えて、目に見えない相手と互いの正義をぶつけ合うことで起こる「戦争」だ。

 森下佳子は東京大学文学部で宗教学科を専攻していたが、東京大学大学院社会家系研究科・文学部の卒業生インタビューの中で、こんな言葉を語っている。

 「シナリオを書くときに心がけていることとして、シナリオの単純な図式としては、主人公がいて、敵対する悪人がいる、という風な物語上の見え方がありますが、敵対する悪人にもこの人の信じるもの、理由なり、理屈なりが必ずあるんです。それをできるだけ多面的に表す、その方がドラマって絶対に濃くなります」。

 正義感が強くて融通がきかず、「べき」が口癖だった彩子。最初はそんな彼女が入れ替わりによって、心の機微を理解して成長していく物語なのだと思っていた。でも、今は世の中が複雑になり、価値観が多様化し、何が正しいのかわからなくなっている時代だからこそ、人によって、相手によって、置かれた境遇や状況によって判断を揺るがされることなく、正しいことをきちんと正しいと言える人が必要なんじゃないかと考えさせられる。

 彩子が入れ替わりに選ばれたのは、まさしく「べき子」だったからではないか。日高の中ではおそらく最初からあったのだろう信頼と、彩子の中では真実が見えてくるにしたがって育っていった信頼。2人のある種、何より強い信頼という愛の正体が、いよいよ最終話で明かされる。(文:田幸和歌子)

<田幸和歌子>
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムをさまざまな媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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