『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』 物語に流れる“少女マンガの血”が意味するもの
■新時代の希望を描く後半
『外伝』の後半は、一転して、解放的な雰囲気が漂う。
後半は、エイミーの妹テイラーとヴァイオレットの物語だ。自由のない生活を強いられるエイミーとは対照的に、テイラーは活発だ。
エイミーは職業を選ぶ自由はなく、どこにも行けない。だが、テイラーは自分の意思で孤児院を抜け出し、ヴァイオレットを訪ねてきて、郵便配達人になる夢を表明する。
女性の不自由さを、少女マンガ的なモチーフを使い描いた前半とは対照的に、後半は新時代の希望が描かれる。
テーマは「仕事」だ。ここではテイラーの夢である郵便配達という仕事にスポットが当てられる。
少女マンガは歴史を重ね、派生ジャンルとしてより高い年齢層をターゲットにしたジャンルが生まれた。女性の社会進出の増加に合わせてマンガも同様にその描く範囲を広げていき、働く女性たちの気持ちに寄り添う作品も数多く生まれている。
後半には、ヴァイオレットの同期のドール、ルクリア・モールバラが登場する。彼女は結婚を控えていて、結婚後も仕事を続けることが明かされる。エイミーとテイラーの本筋のストーリーには直接かかわらないこのエピソードは、結婚だけが女のゴールではない時代がやってきたことを示している。
テイラーが自由を得たのは、エイミーが身を挺して残酷な運命を受け入れたからだ。まだ全ての女性に自由が訪れたわけではないが、昔よりも自由になっているとすれば、それはエイミーのように身を挺して戦ってくれた人がいたからだ。新時代に希望を託した先人の思いと、それを忘れないようにする後の世代。エイミーとテイラーが体現する2つの世代を手紙がつないでいく。
「手紙」というのは伝達手段だ。アニメや映画、そして少女マンガも「媒介=メディア」だとすれば、何かと何かをつなぎ、伝達するものである。この映画は、前半と後半のエピソードによって、これまでの女性たちの苦しみと、これからの時代に託す希望をつないでいるのだ。
そして、その自由への願いは、日本の少女マンガが何十年もの間、ずっと寄り添い続けてきたものなのだ。(文:杉本穂高)
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』は11月5日、日本テレビ系『金曜ロードショー』にて放送。