1999年公開『マトリックス』の衝撃 バレットタイム大流行、DVDミリオン達成…ブームを振り返る
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●低迷していたキアヌの新たな代表作
今でこそ、映画で拳銃と格闘アクションを演じることに何の違和感もないキアヌだが、公開当時の『マトリックス』を見る前の心境を筆者はいまだ覚えている。「キアヌが本気でカンフーをやるらしい」という情報に、一抹の不安を覚えながら劇場に向かったのだ。なぜならキアヌは1994年公開の『スピード』でブレイクして以降、アクション映画っぽいのは『チェーン・リアクション』(1996)ぐらいで、前年1998年は出演作もなく、ちょっとした低迷期だった。凄腕ハッカーのイメージも拳銃を撃ちまくるイメージもなく、ましてやカンフーって…と不安になるのも無理はないというもの。
映画『マトリックス』(1999) 写真提供:AFLO
しかし、蓋を開けてみれば、色白の痩せたキアヌの風貌はディストピア世界にマッチし、黒ずくめの衣装とサングラス、そして格闘アクションは完璧なまでにハマった。1998年に出演作がなかったのは、この映画のトレーニングに費やしたからで、キアヌはそれほどこの作品に懸けていた。現在『ジョン・ウィック』シリーズという新しいヒットシリーズも手にしているが、これもいわばコスプレ格闘映画であるし、シリーズ監督のチャド・スタエルスキは『マトリックス』でキアヌのスタントダブルを担った人物。『ジョン・ウィック』シリーズは、『マトリックス』を抜きには語れない作品なのである。キアヌ自身が「僕らはウォシャウスキー学校卒業生なんだ」と語るように、『マトリックス』がキアヌのキャリアの中で最も重要な作品であることは間違いないだろう。
●全ては最高のストーリーがあってこそ
1999年という、まさに世紀末に誕生した映画史に残る傑作『マトリックス』。その魅力は、アナログとデジタルの巧みな融合、そして技術の進歩と斬新なアイデア、キアヌの新たな魅力の開花など、ヒットした要素を挙げればきりがない。
映画『マトリックス』(1999) 写真提供:AFLO
しかし本作最大の魅力は、観客がワクワクするようなストーリーと、世界の秘密を知った主人公が立ち上がり、強くなっていく爽快感に他ならない。映像がさらに進化した現在、本作を見直すと余計にそれがよく分かる。すべての要素は“面白いストーリー”という最大の魅力があってこそ輝くものなのだ。
いよいよ公開される『マトリックス レザレクションズ』。第1作の公開から22年の時を経て描かれる新たな『マトリックス』は、きっとまた我々をあの世界の虜にしてくれるのだろう。(文:稲生稔)