小林薫73歳、今なお「アップデートしたい」 ゴールなき俳優業を突き詰める熱意を語る

魅力的な俳優が集結し、キャラクターそれぞれの立場や正義を気迫あふれる芝居で体現している映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』。小林薫は懐の深さを感じさせる名演で、観客にとっても「真実はどこにあるのか?」という道標や希望となるような役柄を演じている。小林が、主演の綾野剛に寄せる思い。70代を迎えてもなお「アップデートしていきたい」という、俳優業への熱意を語った。
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■初の“三池崇史組”に「うれしかった」現場で目にした意外な姿
第6回新潮ドキュメント賞を受賞した福田ますみのルポルタージュ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫)を、三池崇史監督のメガホンで映画化した本作。2003年、小学校教諭・薮下誠一(綾野)は、保護者・氷室律子(柴咲コウ)に児童・氷室拓翔(三浦綺羅)への体罰で告発される。報道をきっかけに誹謗中傷や裏切りにあい、停職処分へと追い込まれていく中、法廷で薮下は「すべて事実無根の“でっちあげ”だ」と完全否認。裁判は思いもよらぬ方向へと進んでいく。
映画やドラマなど精力的に役者業に打ち込んでいる小林だが、三池監督とは今回が初タッグ。「三池さんが助監督時代に一つお仕事をしたことがあるんですが、監督になられてからは初めて」と切り出した小林は、「三池さんは、どちらかといえばエンタテインメント系の作品を撮られる監督さんだろうと思っていました。僕はあまりそういった作品にお声をかけていただくタイプではないので。呼んでもらえないだろうなと…」と照れ笑い。そう感じていた中、オファーが舞い込み「うれしかったです。三池さんがどんな演出をされるのか興味があったので、ぜひ参加してみたいなと思いました」とワクワクしたと話す。
「三池さんはあの風ぼうですからね、怖い現場になるのではないかと緊張して臨んだ」とお茶目に微笑んだ小林だが、実際に飛び込んだ撮影現場で目撃したのは「穏やかで静かなんですよ」という三池監督の意外な表情。「自分の世界観があってそれを押し付けるというタイプではなく、それぞれの役者さんの演技を見守ってくれるという感じ。役者に寄り添い、それぞれのアイデアや思いを『わかる、わかる』と組み上げようとしてくれる監督だと思いました」と三池監督の演出術を口にし、「(律子側の弁護士を演じた)北村一輝くんは、三池さんと付き合いが長いので。独特の信頼関係ができあがっていて、北村くんもニコニコしているんですよ。2人の関係性を見ていると、僕も緊張が和らいだところもありますし、監督とそういった繋がりができているのはうらやましくもありました」と撮影現場の様子を振り返る。
小林は、主人公の薮下を引き受ける弁護士・湯上谷を演じた。登場人物の正義や主張がぶつかり合う法廷シーンは、ヒリヒリするような緊迫感あふれる一幕として完成した。
映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』場面写真(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会
小林は「撮影初日から、法廷シーンだったんです。緊張感がありましたね。いきなり、テンションマックスみたいな感じ」と告白する。法廷シーンはセリフ量も多いが、「今回はそんなに膨大でもなかったですよ。朝ドラの時は大変だった」と目尻を下げながら、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合ほか)で演じた法曹界の重鎮、穂高役を回想した小林。「とにかくセリフ量が膨大で、4人くらいの役職や名前をあげながら人物を紹介するシーンがあって。名前も難しい名前だったりして。法律用語も現代とは違うものだったりするので、朝ドラの法廷シーンは大変でしたね」と苦笑いを見せていた。