伊藤沙莉「自分の家族にも思いを馳せた」 家族への想い、結婚後の新たなやりがいを明かす【映画『風のマジム』インタビュー】
伊藤沙莉 (C)黒木早紀子
――完成をご覧になってどう感じましたか?
伊藤:まじむを演じるにあたって、手探りな部分もあり、演じる際に悩むこともあったので、どうなったのかなと気になっていたんですけど、すごくステキな作品になってよかったなと思いました。それはもう、いろいろなスタッフさん、芳賀薫監督、プロデューサーさん…皆さんに感謝ですね。
――ご自身が出ていないシーンで印象に残っているシーンはありましたか?
伊藤:まじむがいない時の、おばあとおかあのシーンはちょっと…刺さりすぎました。ゆし豆腐店の世代交代の話も描かれているんですが、素直じゃないところのあるおばあの気持ちを、親子であるおかあが一番わかっているんです。2人が一緒に歌っているシーンや、まじむのために祈っているところはグッときました。自分の家族にも思いを馳せたりしましたし、すごく温かいんですけど、それだけじゃないちょっと鼻の奥がツンとするような感覚がありました。
――グッとくるシーンですよね。おばあとまじむがお酒を飲むシーンもなかなか珍しいなと思いました。
伊藤:たしかに! ロックなおばあですよね(笑)。かっこいい。
映画『風のマジム』より (C)2025 映画「風のマジム」 (C)原田マハ/講談社
――そんなふうに伊藤さん自身も、まじむのようにご家族とお酒を飲み交わしたりするんですか?
伊藤:うちの母と伯母はノンアルですし、姉はアルコール類が苦手なので、私が一緒にお酒を飲めるのは、兄(※オズワルド・伊藤俊介)か、姉の旦那さんである義理の兄のどちらかなんです。家族旅行に行ってもだいたい兄は来ないので、義理の兄がお酒付き合ってくれますね。芸人の兄はお酒でできているような人なんで、たまに付き合って飲んでくれます。
――まじむがおばあの働く姿を見て感化されるシーンも印象的でしたが、ご自身がご家族に感化された経験はありますか?
伊藤:やっぱり私は母にかっこいい背中をすごく見させてもらった人生だと思っているんです。うちは家庭環境的に若干複雑なところがあって、小さい頃は日常的に母と顔を合わせることがないぐらい、母が一生懸命に働いてたんです。母と伯母が牛乳配達をやっていたんですが、泣く私を自転車の荷台に乗せて、私は2人の後ろ姿を見ていました。その後、母が塗装店で働くようになって、母はずいぶん年下の男の子に毎日怒鳴られたりしていたんですが、それでも絶対に弱音を吐かなかったし、悪口も言わなかったんです。
必死で生きる、家族を養うということを軸に頑張っていて、自分のことは二の次にする彼女たちの背中は本当にかっこよかったし、感謝しかないです。だから、自分も大抵のことを諦めちゃいけないと思うし、まずは一生懸命に何かをやるということがとても誇り高いこと、かっこいいことなんだということを母たちから教えてもらった気がします。
――伊藤さん自身、そんなお母さまから「人への感謝を忘れない」ことを教えられたとおっしゃっていましたね。
伊藤:母は大事なことを耳がちぎれるぐらい言ってくるんです。「そうすれば頭によぎるでしょ」って(笑)。私自身、ずっと言われてきて染み付いているので、「お母さんが言ってたな」とかのレベルじゃなく、そういう人間にしてもらったと思っています。私は家族がベースで生きているので、家族に言えないことや恥じるようなことはできないし、やらない。人としても、仕事においてもそう思って生きています。
伊藤沙莉 (C)黒木早紀子