市毛良枝、来年デビュー55周年 “不健康なことが嫌い”な普通の子に訪れた転機とは?
映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』場面写真 (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」
――演じられた文子さんはどのような女性だと感じられますか?
市毛:幸せな人ですよね。夫にあんなに愛されて。それがすごく羨ましいなと思いました。とても素敵な旦那様で、本当に深く愛されていたことが分かっていくじゃないですか。もちろん存命中も幸せだったと思うんですけど、でもどこかで「夫の世界だけで生きてきちゃった」と思うこともいっぱいあったと思うんです。でもそれがあったおかげで今羽ばたけていると思うから、すごく幸せな人だなと思います。
――役作りで心がけたことはどんなことでしょうか?
市毛:私はお相手の方との空気感で役を作っていくタイプなので、あまり考えないというか。この人はこういう人って理解はするんですけど、相手役が変われば変わっていくし、お相手の方の声を聞いて、自然と自分の音程が決まってくる感じなんですね。今回もおかげさまで自然のままでやらせていただきました。
――夫の偉志さんを演じた長塚京三さんとの夫婦関係も素敵でした。
市毛:長塚さんとは50年前に、恋人から結婚するという、この2人(文子と偉志)のスタートのような作品でご一緒したことがあるんです。根強く記憶に残る作品だったので、その方と50年後にあれから50年経ったような2人を演じるってありがたいなと思いました。そうしたら同じことを長塚さんも言ってくださって。自然と文子さんと偉志さんの関係になれた気がします。
映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』場面写真 (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」
――劇中では、文子さんと、娘で拓磨の母親でもある綾(酒井美紀)とのギクシャクした母娘関係も描かれます。
市毛:すごくリアルですよね。私も娘の立場としてあの2人の関係はものすごく分かります。
うちは仲が悪かったつもりは全然ないんですけど、親しい人には仲が悪いまでではなくても私がずっと怒っていると見られていたみたいで。「その昔は友達みたいな親子だったのよ」って言ったらびっくりされたことがありました。私はそのままのつもりでいたんです。でも母にけっこう厳しく言ってたんですね。
女同士なので、どうしても辛辣になりますし、「母親にはこうあってほしい」と思うところもあったりするので、具合が悪くなったりリハビリなどでは「頑張れ」というつもりもあって鬼軍曹だったんでしょうね。もともと元気だった人が具合が悪くなったりすると、やっぱり元気に戻ってほしいと思うし、母も元に戻りたいと思っている人だったので、はじめの一歩が出ない時に、「足!」ってきつく言葉が出たりするんですね。それをお迎えのデイサービスの人に見られちゃったりすると、「やっぱり女優って怖いのね」と思われていたかもしれません。でも、それをものともせずに厳しく、「はい、自分でやって」「それはちゃんと持って」と指示していました。現実の親子はそんなものなんじゃないかなと思います。