八乙女光、15年前に感じた“無力と悔しさ” 震災テーマの主演舞台で「普通の日常の大切さを伝えたい」
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舞台『小さな神たちの祭り』メインビジュアル
それぞれが特別な思いを持って臨む稽古場は1シーンに長時間もかける熱のこもった雰囲気だ。「台本を読んで、この一言は、この一言は、と1行1行言葉がすごく大切だと感じましたし、それをよりリアルに変えていかなきゃいけないというのはすごく思うので、この作品の中では当たり前なのかなと思ってます。それぐらいかけないと、みんな腹に落として芝居はできない。芝居とリアルの狭間を演じるぐらいの気持ちでいます」と、並々ならぬ覚悟で臨んでいる。
また今回、八乙女は劇中を彩るテーマ曲の作詞・作曲も担当した。「鈴木さんと話し合いを重ねて作っていきましたが、この作品に寄り添った歌詞とメロディーになっています。観に来てくれた誰しもの心に響くように、そしてゆったりと言葉がちゃんと伝わるように、テンポも少し遅めのあったかい曲にしてあります」と出来栄えに自信を見せる。「劇中では藤井くん演じる弟の航がギターを弾いて、子どもたちが僕に向かって歌ってくれるんです。自分で作詞作曲した曲なのに、ウルっとくるんですよね(笑)。お客さんにも伝わったらいいな」。
八乙女は物語の舞台の亘理町にも足を運んだ。宮城県出身ということで、幼少期には海水浴などで訪れたこともある土地だったが、「キレイになってしまった」という印象を抱いた。「震災前はもっと漁師さんがいたり、船があったり、もっとごちゃごちゃっと町があったんですけど、今はなんかすごくキレイで、舗装もしっかりされていて。それは復興の表れではあるんですけど、なんかこう、心のどこかにある虚しさをくすぐるような景色に映りました」と明かす。
亘理ではイチゴ栽培に携わる地元の人とも交流を持った。「作品に出てくるイチゴ農家と似ている形で、ご家族でやられている方だったのですが、すごく広いハウスを数人でやられているんです。震災があってそこまで持ってくるにはすごい気力が必要だったと思い、『どうしてここまでイチゴを育てるのを続けられたんですか?』と伺ったんですけど、『毎年同じイチゴは作れない』っておっしゃったんですよ。なんかそれって、僕が舞台をやるにあたって、舞台って毎日同じ芝居をやるんですけども絶対同じ芝居はできないということに似ているなって感じました。イチゴと舞台だけでもこういう共通点があるんだって不思議な思いをしましたし、お話を聞けて本当によかったです」と感謝。さらに「亘理のイチゴは本当に美味しいので、たくさんの人に食べてもらいたいです」とアピールも忘れなかった。
物語には、陸前高田市に実在する「漂流ポスト」が作品の大切なモチーフの一つとして登場する。八乙女は現地を訪れ、漂流ポストに寄せられた手紙を読んだ。「ファイリングされたお手紙を読ませていただきましたが、手紙ってすごく大事なことを書くこともあるんですけど、僕が読んだ手紙の中には『ちょっとこの間足首ひねっちゃったんだ。でも大丈夫だから心配しないでね』みたいな日常の何気ないことが書いてありました。そういうことだよねって思ったんですよね。亡くなったおじいちゃんのことを思ってどういう手紙を書きたいかとなったら、『もう30歳を超えたよ』とか、それぐらい他愛もないことを書きたいんです。字に迷いがなく何気ないことから芯のある言葉まで書いてある手紙を読ませていただき、みなさんの思いの強さがすごく伝わりました」。亘理、陸前高田を巡って感じた、さまざまな気付きは八乙女の演じる晃をより深いものにしてくれそうだ。

