山根綺「後悔しない道はない」 すべてを捨てて選んだ声優の道と、支え続ける言葉
――声優を目指すと決断し、実際にその道を進んでいく中で、不安や迷いとはどのように向き合ってきたのですか?
山根:正直に言うと、「これでダメだったら終わりだ」と思っていました。背水の陣、という感覚でしたね。当時関わっていた友人や人間関係とも、あえて少し距離を置いて、家族とも自分の中で距離を取るようにしていました。完全に一人になるわけではないんですが、自分で逃げ道をなくすような感覚でした。
大学に通いながら声優を目指すとか、資格を取りながら挑戦するという選択肢もあったと思います。でも私はそういう道は選ばず、声優以外の可能性を自分で断って、「これしかない」という状況を作ったんです。
そうすると、もう進むしかなくなるんですよね。「これでなれなかったら終わり」という覚悟でした。もともといろいろなことを同時にこなせるタイプではないと思っていたので、一つのことにまっすぐ向き合うしかないと感じていました。
不安はもちろんありましたが、それ以上に「これしかない」という気持ちのほうが強くて。その一点だけを見て、前に進んでいました。

――依存からの脱却、という感覚もあったのでしょうか。
山根:そうですね。もう自分が限界だったんだと思います。勉強にも手がつかなくて、シャーペンを握っても、2時間くらい何もできずに止まってしまうような状態で。
そのときに、「今ここで勉強している時間は、本当に自分の人生なんだろうか」と強く思ったんです。塾で机に向かっている時間が、どうしても「自分がやりたいこと」には思えなくて。そこで初めて、「これは私の人生じゃないのかもしれない」と深く実感しました。だからこそ、思い切って振り切ることができたんだと思います。
もちろん、すごく悩みました。海を見ながら何時間もぼーっとして、「私は誰なんだろう」「何のために生きているんだろう」と、ずっと考えていて。
でも、そうやって何度も問い続けて、考え抜いた結果、「もう全部捨ててしまおう」と思えたんです。自分が本当にやりたいことだけを信じて進もう、と。
――そうして声優の道へ進まれた中でも、大変だと感じる瞬間は多かったのでは?
山根:大変でした。もう無理なのかなと思ったことは、正直何度もあります。それでも続けてこられたのは、自分にとってこれしかなかったからだと思います。この仕事がやりたいという気持ちは、ずっと変わらなかったので。
ただ、最初は「有名になりたい」とか、「昔、自分をいじってきた人を見返したい」といった反骨心で動いていた部分が大きかったんです。でも声優は役者なので、それだけでは続かない世界なんだと早い段階で気づきました。
「努力は夢中に勝てない」という言葉があるように、本当に好きで夢中になっている人のエネルギーには敵わない。だから、「有名になりたい」「見返したい」という気持ちだけでは通用しないし、続けていけないと感じたんです。
この世界には、お芝居そのものを楽しんでいる人がたくさんいる。その中で自分はどう在るべきなんだろうと考えたときに、「このままではダメだ」と思って。一度、「何者かになりたい」という気持ちは手放して、自分の中身と向き合うようになりました。
「自分はどこで戦えるのか」「自分にしかないものは何か」と考え続ける中で、結局、自分からは逃げられないんだと気づいたんです。どれだけ“別の誰か”になろうとしても、自分は自分のままで。
そんな中で救いだったのが、「お芝居をしている時間」でした。役に向き合っている瞬間は、将来への不安やこれまでのつらさを忘れて、その役だけに没頭できる。「この時間が一番楽で、楽しい」と思えたんです。
10代の頃はずっと「自分以外の誰かになりたい」と思っていました。でも、お芝居と向き合う中で、「私は私から逃げられない」と気づいて。だったら、この自分で夢中になれるものは何かと考えたときに、やっぱりお芝居だったんです。
役に向き合う時間は、一番自由でいられる時間でもある。そのことに気づいたのが、事務所に入って3、4年目くらいの頃でした。そこから、自分の中の考え方は大きく変わりました。
だからこそ、今回のような朗読劇という形にも強く惹かれるんだと思います。生で役者の皆さんとお芝居を重ねる時間は、自分の人生の一部でありながら、日常から少し離れて別の世界に没頭できる特別な時間でもあって。その中で役や物語に溶け込んでいく感覚が、すごく好きなんです。

――お芝居や作品と向き合う中で、原動力そのものが少しずつ変わっていったのですね。
山根:そうだと思います。昔は本当に自分のことしか見えていなかったんです。でも、作品にはそれを生み出す方々がいて、関わるスタッフやキャストの皆さんがいて、そしてその完成を楽しみに待ってくださっている方々がいる。その広がりを実感するようになってから、この仕事の意味が少しずつ変わっていきました。
もともとは、自分の中の絶望から始まった夢でした。でも今は、その夢が誰かの希望につながっているのかもしれないと思えるようになっていて。
自分の人生が、自分だけのものではなくなって、誰かのためにもあるんだと思えるようになったとき、初めてこの仕事を続けていく理由が見えた気がします。言い方としては少し変かもしれないですけど、“新しい依存先”がそこにあるのかもしれない。もちろん、すごくポジティブな意味で。今はそういう気持ちで向き合っています。

