山根綺「後悔しない道はない」 すべてを捨てて選んだ声優の道と、支え続ける言葉
――役から離れた日常の中で、山根さんが「自分らしくいられる」と感じるのはどんな瞬間ですか?
山根:シャワーを浴びているときですね。本当に自分しかいない、誰にも見られない時間なので。お風呂やシャワーの時間って、思考が整理しやすかったり、いいアイデアが浮かびやすかったりするらしいと知ってから、「この時間を大事にしよう」と思うようになりました。
ただの作業として過ごすこともできる時間なんですけど、私は好きな音楽をかけて、その日あったことを振り返ったり、インタビューやアンケートの答えを考えたりすることが多いです。あとは、嫌なことがあったときに「あれは嫌だったな」と思い返して、その場で発散することもあります。完全に一人の状態だからこそ、一番自分らしくいられる時間なのかもしれないですね。
――そうした時間まで考え事をしているのですね(笑)。
山根:そうなんですよ(笑)。どうしても考えてしまうんです。もうこれは性格というか、生まれ持った気質なんだろうなと思っていて、最近は半分受け入れるようにしています。
昔から「気にしすぎ」「考えすぎ」「深読みしすぎ」と言われてきました。でも、それも含めて自分なんだと思うようになって。無理に変えるのではなく、この“考える力”をどう使うかのほうが大事なんじゃないかなって。
以前、友人に「考えすぎて自分を苦しめている気がする」と相談したときに、「楽しく悩めてないんじゃない?」と言われたんです。その言葉がすごく印象に残っていて。少し俯瞰して、「こういうこともあるよね」と受け止めながら、軽い気持ちで考えてみる。そうすると、悩んでいる自分を否定しなくて済むんだよ、と教えてもらって。
それ以来、「悩まないようにする」のではなくて、「どう悩むか」を大事にするようになりました。悩むことも含めて、自分の人生なんだと受け入れながら、なるべく楽しんでいけたらいいなと思っています。

――素敵な考え方ですね。また、山根さんの価値観を形づくった出会いや、今も心に残っている言葉はありますか?
山根:特に印象に残っているのは、中学2、3年生のときの担任の先生です。当時の私は今以上に繊細で、いろいろなことを考え込んでしまう性格でした。家族との関係や自分の本当の気持ちなど、思春期ならではの悩みも多くて。でもその先生は、そうした気持ちを否定せず、優しく受け止めて、一緒に悩んでくれるような方だったんです。
中学校で最後にもらった成績表の「担任所見」に書いてくださった言葉が、今でもすごく心に残っています。
「負けず嫌いで、何事にも一生懸命に取り組み、自分の考えをきちんと主張できるところが素晴らしいところです。最近では個性豊かな仲間たちの様子をよく見て、集団としてうまくいくよう心を尽くすことができるようになりました。しかし、根拠のないマイナス思考で自分に自信を持てないときがあるのが玉に瑕です。あなたには素晴らしい素質がたくさんあります。それを磨いて、より一層成長していってください」
今でも、ふとしたときにネガティブな想像をしてしまったり、自分で勝手にストーリーを作って落ち込んでしまうことはあります。でもそんなとき、この言葉を思い出すんです。「あなたには素晴らしい素質がたくさんあります」と書いてくださった、その一文を。
不安になったときに読み返して、「大丈夫、私は大丈夫」と言い聞かせる。まだ完璧にできているわけではないですが、いつか自分のことをそのまま愛せるようになれたらいいな、というのが今の目標です。
――山根さんにとっての原点のような言葉なんですね。
山根:そうですね。いいことだけを言ってもらえるのも嬉しいんですけど、この言葉は、本当に私のことを見てくださっていたからこそ書けたものだと思うんです。いいところも、弱いところも、全部ひっくるめて受け止めてくれているというか。だからこそ、今でもずっと心に残っているんだと思います。
先生に出会えたことは、私の人生の中でもすごく大きな出来事で、「出会えてよかった」と心から思える存在です。
――今、「一歩踏み出すこと」に迷っている人に、どんな言葉を届けたいですか?
山根:私が伝えたいのは、「後悔しない道はない」ということです。どんな選択をしても、「あっちを選んでいたらどうなっていたんだろう」と思う瞬間はきっと訪れると思います。
私自身も、「あのとき違う道を選んでいたら」と考えることはあります。でも、それでも今ここにいるのは、自分で選んできた道だからなんですよね。
だから、迷ったときは「自分が選んだ道が正解なんだ」と信じてほしい。どの道を選んだとしても、その先の自分が、その選択に意味を与えてくれると思うんです。自分を信じて、一歩踏み出してほしいなと思います。

(取材・文・写真:吉野庫之介)
READING WORLD×VISIONARY READING 朗読劇『紫苑のもみじ』は、東京・日本青年館ホールにて、7月17日〜19日上演。

