「危険ですよこの映画は」中村獅童、“挑戦的”北野武監督作『Broken Rage』を語る!
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――精製工場を取り仕切る田村役の宇野祥平さんと監督との3人のやり取りが最高に面白かったんですけど、あそこはどういう風に撮っていたんですか?
中村:あのシーンでトロフィーが壊れちゃったのは演出じゃなくてハプニングなんです。でも、ハプニングが起きた時に役者がどうするかが大事です。「ごめんなさい。壊れちゃったので」ってやめにするのか、芝居を続けるのか。若い時にアメリカに行った時にある監督に「セリフを噛もうが失敗しようが、僕がカットって言うまでは芝居をやめないでくれ。日本の人はちょっと失敗すると『ごめんなさい。NG』みたいなリアクションをするんだけど、それをやらないでほしい。僕はむしろハプニングが大好きなんだ」と言われたんです。つまり、役になりきれということだと思うんです。トロフィーが壊れても、これは演技をやめちゃいけないなと思いました。
このままあたかも演出かのように続けた結果、多分白竜さんとかは普通に吹き出してると思うんですけど、予想外の展開で、このつながりどうしようみたいな状況でも監督が「これ面白いからまあいいか」て言って、そういう演出に変えるんです。現場で笑っちゃいました。スタッフの吹き出している声とかは入っていないと思いますが、スタッフも結構笑っちゃって、笑いを耐えるのが大変な現場でした。北野監督がどういうアドリブをされるかもわからないので。いつでもアドリブに対応できるよう自分で考えておく。その中でハプニングかも分からないくらいリアルなことが生まれたりもするので、それが面白いところなのかなという風に思います。ハプニングの中から誰も想像してないことが突然起こるわけですから。そういう時でも、北野監督の笑い声が聞こえたりするとちょっと安心します。監督が笑ってくれるとめちゃくちゃうれしいですね。
僕らは本当に楽しく撮影させていただいたんですけど、笑いが現場で生まれることはほとんどないんです。演出や台本も変えたりして、撮り方もテストをやって変えることもあります。若い方たちが映画離れしているなんて話も聞きますけど、AパートとBパート合わせて約1時間の作品ですから、今までにはない新しいタイプの北野作品を大きな画面で見るもよし、携帯で気軽に見るもよし、いろんな楽しみ方ができるんじゃないかなと思います。僕らも出させていただく立場ですから、これから映画を含めたエンタメをどんどん盛り上げて、業界自体も面白くしていければなという風に思っています。
歌舞伎役者として、いつも言うことは「歌舞伎というのは400年の歴史がありますが、その中で現代を生きる我々の歴史と伝統と革新を大切にしたい」。そんな役者人生を送っていきたいなという目標があるので、北野作品という映画の一つの伝統を守りつつ、いつでも革新を追求する新しいものに携わりたいです。北野監督ご本人の魅力であったり、生き様や思想が作品に反映されていると感じます。新しいことに挑戦する時っていうのは怖い気持ちもあります。だけど挑戦しないと新しいものって生まれませんから。新しいものを作った時は、賛同を得ることもできれば、「いや、これは違う」っていう方もいらっしゃると思います。この作品はまさにそうだと思います。恐れずに前に突き進んでいく、新しいものを作る、批判を恐れずに新しいことへチャレンジするという冒険心は本当に見習わないといけないなと思います。本当に今の時代に切り込んでいったなと思います。ある種危険な作品です。
――Bパートのセルフパロディーはコメディータッチで描かれていますが、撮影はいかがでしたか?
中村:歌舞伎のお芝居でも喜劇がありますが、「自分が真面目にやっているからこそ喜劇は面白い」という若い頃からの教えがあります。自分が楽しむのはいいことだけど、ふざけてはだめ。「喜劇こそ真剣にやる」っていうのは叩きこまれてきました。 だから、今回の撮影では数々のハプニングもありましたが、大真面目にやっています。どんなことが起こるか分からないし、監督のアドリブもどう来るのか分からないからこそ、こちらが揺れてしまうとだめ。でも、そういうことにも対応できるからこそ呼んでいただけているのかなという部分もありますし、そこは監督の期待に応えたい、どんなことがあっても成立させるという想いがありました。
大森(南朋)君と浅野(忠信)君は本当に大変だったと思います。いろいろ撮影現場でセッティングがいる時とか、ちょっと空いた時間の時にいろいろ相談していました。まさにアドリブの極致です。危険ですよこの映画は。
――この作品が世界に発信されることについてどう思いますか?
中村:北野監督は、海外の方に評価されて逆輸入みたいなところがあるじゃないですか。そして日本の人たちも注目するっていう。本当は逆だと思うんです。日本の人たちがすごく注目して素晴らしいと言ったものが海外で称賛される。海外でウケたものを日本人がやっと認めるっていうのは、どこか悔しい部分もあります。海外の人たちは作品への理解度が深いですよね。カンヌに連れて行っていただいた時に街を歩いていると、レストランに入っても「たけし! たけし!」とみんなに声を掛けられていました。本当に世界的な方ですし、“世界のキタノ”ってよく言いますが「ああ、なるほど。こういうことなんだな」と感じて、いい空気を吸わせていただきました。
Amazon Original映画『Broken Rage』は、Prime Videoにて2月14日より世界独占配信。