女子フィギュアの問題児が起こした“史上最大のスキャンダル”とその人生

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90年代、全世界をにぎわせたスポーツ界の問題児が、今、映画でよみがえる。マーゴット・ロビーが主演とプロデューサーを兼任する『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(5月4日公開)は、アメリカ人女性として初めてトリプルアクセルを成功させたフィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングの伝記映画だ。だが、現在27歳のロビーも、脚本を読むまで彼女について知らなかったという。“史上最大のスキャンダル”とは何だったのかを、振り返ってみよう。
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1994年1月に起きたその出来事は、やはり有名なフィギュアスケートの選手だったナンシー・ケリガン(当時24歳)が、練習の直後、何者かに棍棒で脚を殴られたというもので、しばしば“ナンシー・ケリガン襲撃事件”と呼ばれる。怪我のせいで、ケリガンはアメリカ代表としてリレハンメル・オリンピック出場を諦めることになるかと思われたが、順調に回復し、無事出場を果たして、見事、銀メダルを獲得した。
犯人として逮捕されたのは、シェーン・スタントという名の男性。まもなく、彼を雇ったのがケリガンのライバルであるハーディング(当時23歳)の元夫ジェフ・ギルーリーと、ギルーリーの友達でハーディングのボディガードを自称するショーン・エッカードだったことが判明する。
ハーディングは関与を否定したが、メディアはすぐさまこのスキャンダルに飛びついた。ハーディングとケリガンは、仲良しとは呼べなかったものの、狭い世界で、同年代の、長年にわたる知り合いだ。そんな相手を、自分がアメリカ代表としての枠を得るために、こともあろうに“元”夫を使って襲撃させたとは、フィギュアという美しい世界といかにも不釣り合いな安っぽい話ではないか。ハーディングは育ちが悪い人、ケリガンはお姫様というイメージがあったことも(実際には、ケリガンの家も裕福とはほど遠かったのだが)、このドラマに輪をかけた。当時、アメリカのテレビのコメディアンは、大喜びでハーディングをジョークのネタに使ったものである。
しかも、そこまでして出た肝心のオリンピックで、ハーディングは、トリプルルッツが1回転となる失敗をおかし、演技を中断して、ジャッジに「靴紐のせいだ」と訴える醜態を見せることになってしまった。そしてオリンピック終了後の同年3月、ハーディングは、懲役を逃れるために罪を認め、500時間の社会奉仕活動、16万ドルの罰金を受け入れる。これを受けて全米フィギュアスケート協会は、ハーディングに生涯追放を命じた。貧しい家に生まれ、スケートだけをひたすらやってきたハーディングは、こんな形で自分を定義するものを失ってしまったのだ。