S・キングが「地獄の“スタンド・バイ・ミー”」と表現――恐怖と郷愁がせめぎ合う『ブラック・フォン』監督が込めた思い
――主人公のフィニ―を黒電話で助ける幽霊ボーイズが、少年なら誰しも「憧れ」や「尊敬」を抱く魅力的なキャラクターだったのも、素晴らしい翻訳だと思いました。彼らに具体的なモデルはいますか?
デリクソン監督:原作に出てくるブルース・ヤマダを除けば、僕の少年時代の友人・知人がモデルだよ。僕はノース・デンバーで育ち、白人とメキシコ人が半々の割合で暮らす地区に住んでいた。日本人の子どもも一人いたね。ほとんど交流はなかったけど。フィニ―に戦い方を教えるロビンは、僕に精神的な支えをくれた親友がモデルだ。不良のヴァンスや、新聞配達の少年もそうだ。映画の舞台を1970年代に設定したのも、子どもの僕が感じた当時のノース・デンバーを伝えたかったからだ。物悲しく、薄気味悪くて、どこか敬虔(けいけん)な空気が漂っていた時代をね。
映画『ブラック・フォン』メイキング (C) 2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
――過ぎ去った昔や子ども同士の友情に抱く郷愁の痛みは、スピリチュアル版『スタンド・バイ・ミー』(1986)のようでした。あの映画を意識されましたか?
デリクソン監督:ジョー・ヒルが映画を父親のスティーヴン・キングに見せたら、彼はひとこと“地獄の『スタンド・バイ・ミー』だね”って(笑)。
■最大の強さは、純真で深いスピリチュアリティから来るものだ
――誘拐された兄を救おうとする妹グウェンの、予知夢と神様への祈りを巡るプロットもとても効果的でした。
デリクソン監督:原作は男3人の物語だった。ブルース・ヤマダとフィニーとグラバーだ。映画化にあたり、幽霊ボーイズを増員し、暴力的な父親(ジェレミー・デイヴィス)を登場させたことで、どうしても物語の中心に女性を加えたくなったんだ。心のよりどころとしてね。グウェンは9歳だが聡明で、どのキャラクターよりも強い。警察や幽霊ボーイズよりもずっとね。僕はその強さは深いスピリチュアリティから来ていると思う。彼女には神に祈ることでパワーを引き出す「場所」があるんだ。同時に、神を疑う「強さ」も備えている。自分が直面する理不尽の前では、信仰は無意味に思えるからね。グウェンは複雑な内面を持ちながら、子どもらしい無邪気な信仰心を発揮する。彼女のキャラクターはすごく気に入っているんだ。
映画『ブラック・フォン』より (C) 2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
――サイコパスや殺人、幽霊に予知夢と、様々な要素が混じり合うホラーでありながら、最後に人間の心を強く感じさせる仕上がりに泣きました。
デリクソン監督:少年と誘拐犯、ヒントをくれる幽霊と繰り返される脱出劇。サスペンス満点だし、物語の根幹はこれで十分だ。それ以外のプロットは、兄妹関係と友情にフォーカスした。フィニーが虐待をどれほど憎み、妹のグウェンを心から大切にしているか。逆に学校でフィニ―がいじめられると、友人のロビンとグウェンが彼の絶対的な味方であることが分かる。フィニーの人生には、愛があるんだ。それが孤立無援の窮地から立ち上がる原動力になる。兄妹を演じたメイソン・テムズとマデリーン・マックグロウは感じるままに、繊細に感情を表現してくれた。エモーショナルなドラマは、恐怖と同じくらい、ときにそれ以上に重要なんだ。愛するキャラクターが直面する脅威は、何倍も怖くなるからね。それが僕にとって、面白いホラー映画を作る秘訣なんだよ。
(取材・文:山崎圭司)
映画『ブラック・フォン』は公開中。