鬼才パク・チャヌク監督 週52時間労働が定着した韓国映画業界は「望ましい方に変わっている」
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ヘジュンとソレからは、独特なリズムと間が感じられる。肉体的な交わりがないのに、しっとりとした湿度をまとった、二人ならではの距離感が生まれているのだ。この表現は、本作のみならず、『渇き』、『お嬢さん』などでチャヌク監督と共同で脚本を執筆してきたチョン・ソギョンとの話し合いの中で作り上げられていったという。
「露出や情事、暴力的なシーンをできるだけ排除し、繊細で優雅で深みがあり、少し隠し事があるような感覚の映画にしたいと思いました。そのためにも、刺激的な表現は避けたのですが、繊細さなどを観客に感じてもらえないと意味がないので、俳優の目の動きや揺らぎ、小さな表情、そして編集や撮影などの映画的な技法で補いながら表現する方法を試みました」。
『別れる決心』場面写真 (C)2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
そして、ヘジュンを演じるパク・ヘイル、ソレを演じるタン・ウェイには、脚本が未完成の段階で、作品の方向性が伝えられた。チャヌク監督は「脚本が全部出来上がった後に、俳優に見せて、出演の承諾をもらうということをしたくなかった」そうで、二人には、口頭で本作がどんな映画になるのかを、長い時間をかけて説明したという。それが功を奏し、映画は構想通りに完成。役者もスタッフも同じ方向を見た映画づくりが行われていたようだが、そんな中で、チャヌク監督がヘイルの演技を見て、「情けないやつだ」と勘違いしてしまった出来事もあった。
「死体安置室でヘジュンとソレが初めて会うシーンでは、ヘジュンをかなりのクロースアップで撮りました。ヘジュンが、ソレをじっと見つめた後、『暗証コードを教えてください』という場面です。もともとヘイルには、長めにウェイを見てからセリフを言ってほしいと伝えていたのですが、いざ撮影が始まると、ヘイルはじっと彼女を見つめたまま…。『きっとセリフを忘れたんだ。長くもないのに、こんなのを忘れたのか情けないやつだな』って内心思っていたら、その間は彼なりに計算した上での表現でした」。
一方、ソレを演じるタン・ウェイの役作りもすごい。ウェイは、中国・浙江省出身で、香港の市民権を獲得している女優。驚くことに、韓国語が全くできないところから、ソレという役に向き合った。